SAT 真の患者利益のため予防歯科を中心にした歯科医療へ

活動報告


Olal Physician アドバンスコース スウェーデン・マルメ研修



1.マルメ研修タイムスケジュール
2.マルメ研修コース・要約
3.熊谷崇「2007年マルメ研修参加のみなさまへ」
4.写真
5.熊谷崇「2007年マルメ研修を終えて」
6.参加者の感想 
太田貴志佐々木英夫斎藤直之伊藤直人高橋周一伊藤智恵
井上敬介井上貴詞菅野宏小口道生金谷史夫佐々木英富
仲川隆之
加藤大明熊谷昌大熊谷直大熊谷ふじ子仲川なぎさ久保郁子
福田健二大楽貴彦永森司加藤久尚江間誠二佐藤克典柴田貞彦
小玉尚伸川原博雄千葉雅之大貫佳鼓晝間康明徳本美佐子
石澤直子
富山美菜菅原佳子坪山郁世千葉悦子前田奈美加藤純子斎藤洋子



2007年9月24~28日オーラルフィジシャン アドバンスコース スウェーデン・マルメ研修
Advancing Dental Health, オーラルフィジシャン Course in Malmo September 24 -28, 2007. Lecture theatre F5.

研修日程表
9月24日 月曜日 25日 火曜日 26日 水曜日 27日 木曜日 28日 金曜日
09:00
イントロダクションと研修の目的
講師全員

歯科医学の本質
講師: D Ericson
08:30
いつ修復するのか?歯科医学におけるMI
講師: D Ericson
08:15
ホテルにてガイドが案内
グループの1/2
デンタルヘルスセンター
グループの1/2
保育園
08:30
メインテナンスとは何か?
講師: G Bratthall
08:30
歯周インプラント
講師: G Bratthall
休憩 10:00 休憩 10:00   休憩 10:00 休憩 10:00
10:30
歯科衛生士教育プログラムにおける問題解決型学習
講師: K Wretlind, P Carlsson
11.15
歯科衛生士教育プログラム
講師: K Wretlind, L Gassner
10:30
深いカリエスに対する処
講師: A Lager
グループの 1/2
デンタルヘルスセンター
グループの 1/2
保育園
10:30
歯科衛生士のための日常業務と経済(患者負担費用 vs. 給与)
講師: K Wretlind
10:30
歯牙う蝕の歴史
講師: Bo Krasse
昼食 12:30
(Aula foyer)
昼食 11:45
(Aula foyer)
バス移動
Vastra Hamnenで昼食
昼食 11:45
(Aula foyer)
昼食 11:30
(Aula foyer)
13:30
リスク評価: データの収集 演習
講師: G Hansel-Petersson,
IM Redmo
Emanuelsson
13:15
薬剤と疾患パターン
講師: G Bratthall,
D Ericson
訪問研修
健康な高齢者のためのホーム
健康でない高齢者のためのホーム
13:15
Lecture theatre F5/computer rooms
サリバテストの分析
カリオグラムへのデータ入力
講師: G Hansel-Petersson,
IM Redmo
Emanuelsson
13:00
人頭払い方式と健康への奨励策
講師: Ewa Ericson
休憩 15:00 休憩 15:00   休憩 15:00 休憩 14:30
15:30
カリエスの進行.演習.
講師: P Carlsson, D Ericson
15:30
マルメ大学歯学部の見学
カルチャー研修
15.30
Turning Torsoを見学
15:30
カリエスリスク,ディスカッション
講師: G Hansel-Petersson,
16:00
ペリオリスクファクター
講師: G Bratthall
15:00
Q & A
講師全員
終了 17:00 終了 17:00 バスにてホテルへ 終了 17:00 懇親会と修了証書授与

Advancing Dental Health, オーラルフィジシャン Course
in Malmo September 24 -28, 2007.


Target group: Japanese dentists and dental hygienists

Title: Advancing Dental Health

Content: 4 days seminar on preventive dentistry (lectures, practical sessions) 1 days tour visiting health centre and day-care or nursing home for the perspective of oral hygiene care.

30 participants and Dr. Kumagai (Odont dr hon caus Malmo University), interpretion by Ms Sanae Iwagami and Dr. Nishi Makiko.

Learning issues:
・ Minimally invasive dentistry
・ Periimplantitis
・ PBL
・ Maintenance of patients
・ Caries risk assessment
・ Medication and periodonitis/caries
・ Health incentives and capitation systems

Lecturers: Professor Gunilla Bratthall Professor emeritus Bo Krasse Professor Dan Ericson Dr. Gunnel Hansel Petersson Dr. Katarina Wretlind Dr. Ewa Ericson Student(s) (We will add a few more)

Instructors: Dental hygienists Laboratory assistants



Preliminary schedule:


Sunday evening September 23: Get together party/ introduction at hotel (Hilton Malmo)


September 2007
Monday 24 Tuesday 25 Wednesday 26 Thursday 27 Friday 28
Start 09:00 Start 08:30 Start 08:30 Start 08:30 Start 08:30
Introduction and focus of course

The essence of dentistry

PBL (incl student presentation)
When to restore?

Minimally invasive dentistry
Study visit

Dental health centre
(walking distance)
What is
maintenance?
Periimplantitis
         
Dental hygienist programme Deep caries managemen Study visit

Nursery school
(walking distance)
Daily procedures
and economy
(patient fee vs. salary)
for the dental hygienist
History
Lunch Lunch Lunch Lunch Lunch
Saliva samples Hands-on Medication and disease patterns (gingiva, saliva, erosion) Study visit
Home for healthy elderly (in Malmo)
Entering data
CariogramRisk discussion
Capitation and health incentives
         
Caries progression exercise (Tour on dental school) Culture
(Turning Torso)
Periodontal risk factors
Smoking/diabetes
Q & A
End 17:00 End 17:00   End 17:00 Banquet dinner and diploma
Other topics discussed 18-19 Sept 2006:
  • Tobacco secession
  • Literature
  • Antiseptics in dentistry
  • Genetics of host and ms
  • Moving away from dental mechanics as the only tool for health
  • Essence of dentistry
Key words from previous correspondence:
Dr Kumagai wants to find the 'roots' of Cariology and describe to the study group how it evolved.




2007年9月24~28日 アドバンスコース 講義・演習の要約

9月24日(月曜日) 時間: 09:00
講師: D Ericson とその他講師
イントロダクションと研修の目的.
事務的説明.

9月24日(月曜日)時間: 09:30
講師: D Ericson
演題: 歯科医学の本質 .講義.
「歯科疾患のほとんどは,バクテリアが原因であり,バクテリアと宿主との間にバランスの崩れた生態系が成立することによって生じる.歯科医学の本質は,患者に疾患の原因を伝えて健康の状態を維持するように導き,傷害を与えることなく保存的永続的な回復を巧みに施し,健康的な口腔のバランスを再確立させることにあるだろう.それを成功させるためには,それぞれの患者に合った方法を見出し,また,患者に口腔の医学とは歯科医師が削って詰めて,請求するといったもの以上のことだと理解させる必要がある」

9月24日(月曜日)時間: 10:30
講師: P Carlsson and K Wretlind
演題: 歯科衛生士教育プログラムにおける問題解決型学習.講義.
「 問題解決型学習Problem Based Learning (PBL)は,医学のような応用科学における教育で,ある課題について妥当な解決策を教えるために用いられる.その方法としては,自発的な教育プロセスの学習を始めとしていくつかの特徴がある.つまり,将来,学生がその職業で知識を応用するであろう場合を想定して,同じようなコンセプトが学習課題として紹介され,それを自分の力で学ぶというプロセスが基礎となっている.“問題”(臨床ケース)の解決に焦点を当てた学習プロセスによって,学生は新しい知識を獲得することになる.そしてスケジュールに基づいたステップによりその学習プロセスは進行し,チューターのガイドのもとで他の学生とグループ相互学習を行う.最初のステップは学生グループ内で“問題”に関する事項を自由に引き出す.それにより学生が予め持っている知識や経験と解決プロセスとをつなげることができる.次のステップは“問題”の解決のための仮定を立て,多くの参考資料から個人個人で事実を見つける期間である.最後に,学生が再び集って問題の解決策を比較し合う.その学習コンセプトにさらに説明が必要な場合は,その課題における専門家のセミナーが開かれる.マルメ大学の歯科衛生士教育プログラムでのPBLの応用を例として説明する予定である.」

9月24日(月曜日)時間: 11:15
講師: K Wretlind and L Gassner
演題: 歯科衛生士教育プログラム.講義.
「 歯科衛生士教育プログラムは現在2年カリキュラムで行われている.歯科技工士と歯科医師になる予定の学生と共に総合導入コースを実施した後,次の4つの主コースが行われる. 1. 口腔健康 ? 健康と疾患の間のバランスに影響を与えるファクター. 2. 歯周病とカリエスの診断.単純性歯周炎と初期カリエス病変の予防と治療. 3. カリエスと歯周病の予防と治療. 4. カリエスと歯周病. コースは問題解決型学習Problem-Based Learning (PBL)で実施され,それぞれのタイトルが示すように,歯周病とカリエスに関する事項が繰り返し行われる.これらの疾患の初期病変から重度病変,合併症までを扱ったPBLのケースと担当患者を持つ臨床実習が教育プログラムの基礎である.歯科医師になる予定の学生と合同になる場合もある.例えば,局所麻酔の理論と実践などである.歯科衛生士になる予定の学生と歯科医師になる予定の学生は,チーム医療の実践のために,それぞれ最終年に一緒に患者を担当する.公立歯科診療所での臨床実習は特に最終年に行われる.」

9月24日(月曜日)時間: 13:30
講師: G Hansel Petersson, IM Redmo Emauelsson
演題: リスク評価: データの収集,唾液サンプリング. 講義と演習.
「患者のカリエスリスクについて,専門家はしばしば確たる“フィーリング”をつかむが,そのリスクの理由を具体的にあげたり,焦点を当てた予防処置を提供することは単純ではない.個人の総合的なカリエスリスク像を描くには,複数のファクターを考慮してそれらに比重をかける必要性に直面する.リスク評価は複雑なプロセスを要する.臨床での応用を容易にするため,カリオグラムというカリエスリスク評価モデルのコンピュータープログラムが開発された.患者は臨床現場で診査を受け,過去のカリエス経験,食事,口腔衛生,フッ素の利用,特定なバクテリアの存在,唾液の要素について情報が集められる.そしてそれらは‘スコア’化されて,プログラムに入力される.数式により,プログラムはデータを評価して,比重をかけた計算結果を表示する.その患者のリスク像は,円グラフで表現され,カリエスに関するファクター間の相互作用を描出する.講師が,サリバテストを紹介し,実践セッションでどのようにそのテストを用いるのか示す予定である.そして参加者は,ミュータンスレンサ球菌,ラクトバチラス,唾液緩衝能と分泌量を測定するための唾液サンプリングを行う予定である.」

9月24日(月曜日)時間: 15:30
講師: P Carlsson and D Ericson
演題: カリエスの進行. 講義と演習.
「歯牙う蝕の進行は患者や歯によって様々であり,う蝕を誘発する要素,歯面の状態,フッ素の存在などいくつかのファクターに依存する.子どもと成人におけるカリエスの進行の速さが患者の年齢に依存すること,つまり年をとっている人の方がカリエスの進行が遅いということがデータで示されている.多くの国で,隣接面カリエスの進行はX線を用いてある程度の期間追跡され,修復は象牙質内にはっきりとう蝕の進行が認められるまで控えられる.X線を使わずに進行程度を決定すると,キャリブレーションを行っていない観測者間で,たいてい判断にばらつきが生じる.この事実から,歯科医師間で“修復閾値”にばらつきのあることが理解できるだろう.初期う蝕病変の診断と進行程度の決定にばらつきのあることは,疾患の罹患率と国や地域の歯科医療従事者の考え方のような他のファクターによっても影響を受けている可能性がある. X線を使って参加者が個々にカリエスの進行のスコアをつける演習を基にして,診断のばらつきとキャリブレーションの影響についてのディスカッションを行う予定である.」

9月25日(火曜日)時間: 08:30
講師: D Ericson
演題: いつ修復するのか?歯科医学におけるMI .講義.
「う蝕病変を修復するか否かの判断は,カリエスリスクの生物学的情報,予防処置,病変のサイズ,進行速さ,歯面などの要因に基づく.しかしながら,修復の報酬レベルと予防の報酬レベル,患者の期待,慣習といった他のいくつかのファクターも“修復の閾値”に大きな影響を与えている.健康の観点における最適な修復の閾値は,現行の臨床のそれとは異なるだろう.修復の失敗について,もっともよくある理由は二次カリエスと修復物の破折で,二級修復の生存率はメディアン生存期間7-9年である.形成中に隣在歯が偶発的に受けるダメージのリスクは高い.二級形成の70%にもこの医原的問題が生じている.我々の臨床時間の65%以上が以前の修復物の再修復かやり直しに割かれている.大規模な調査においてカリエスの進行率と修復物の生存率を比べられているが,早期の修復介入(エナメル質う蝕に対して)は,全く何もしない場合よりも歯牙に有害であるだろうと考えられる.それゆえ,正確な病変診断と疾患予後診断は修復するか否かの判断の基礎として非常に重要である.う蝕病変を修復する理由は,術者と患者に明らかにされなければならない.」

9月25日(火曜日)時間: 10:30
講師: A Lager
演題:深いカリエスに対する処置.講義.
「 深いカリエスの管理,つまり歯髄に近い病変に対してはほとんどの歯科医院で行われている処置である.最もよくある治療は全てのう蝕病変を外科的に取り除き,直ちにその歯牙を修復するというものである.しかしながらこの方法を用いると,歯髄にとても近い部分での処置のため,または医原生の直接露髄のため歯髄にダメージが及ぶ可能性がある.この歯髄へのダメージにより,歯内療法が必要になる場合がしばしばで,患者にとっては費用がかかる上に不快な処置である.歯科医師もまたこれらの処置を行うために多くの時間を使わなければならなくなるだろう.本講義では,これに変わるものとして,深いカリエスに対する処置としてより侵襲が少なく,より生物学的な処置,ステップワイズエクスカベーションstep-wise excavationを議論する予定である.そしてこの処置で期待される生物学的反応と現在の科学的知識に関する議論を行う予定である.」

9月25日(火曜日)時間: 13:15
講師: G. Bratthall and D. Ericson
演題: 薬剤と疾患パターン.講義.
「 いくつかの薬剤には歯科の健康に副作用を及ぼすものがある.よくあるものは唾液分泌量の減少で,それによりプラーク蓄積,カリエス,粘膜病変,びらん,さらに甘味料製剤によりカリエス,歯肉増殖が誘発される.びらんを起こす製剤は酸性で,唾液分泌に影響を及ぼす.食道反射oesophageal reflexの治療の製剤でさえ持続的な歯牙浸食を引き起こす可能性がある.う蝕誘発性薬剤としては,砂糖が含まれているものが考えられ,多くの製剤は唾液量を減少させる.唾液分泌減少は一般的な投薬で生じる.そのような患者の治療について議論する予定である.いろいろな薬剤によって歯肉も影響を受ける.数十年前の抗てんかん薬のほとんどが歯肉増殖に関係していたが,現在は歯肉に影響を及ぼさない他のタイプの成分が使われている.今日,抗高血圧症の薬剤成分(カルシウム拮抗剤など)は,歯肉増殖に関するものとして大変よく見られる.これは,歯肉切除術と引き続いて適切な口腔衛生処置を行うことによって治療可能である.また,患者の担当医と薬剤の変更を話し合うことも推奨される.それほど一般的ではないが,移植と癌治療に関する薬剤もまた歯肉に影響を及ぼす場合がある.」

9月25日(火曜日)時間: 15:30
マルメ大学歯学部の見学.

9月26日(水曜日)
08:15にホテルに集合 (2 つのグループに分かれ,それぞれの施設へ徒歩移動.午後はバス移動)
08:30 訪問研修 -公立デンタルクリニック -子どもデイケアセンター -高齢者ケアホーム

9月27日(木曜日)時間: 8:30
講師: G Bratthall
演題: メインテナンスとは何か?講義.
「1999年のコンセンサス会議にて,“慢性歯周病chronic periodontitis”の用語定義が行われた.これは,この疾患が治癒不可能であることを意味するものではない.しかし,重度歯周炎の既往を持つ患者は,定期的なチェックアップと初期病変の治療を行わずに放置していると,新しい病変が進行してしまう.その患者が新しい病変に対しての抵抗性に限りがあると理解することが重要である.つまり,集中的な歯周病治療と再評価が行われた後に,ディープスケーリングまたは外科処置後の少なくとも最初の一年間は3ヶ月に一度,診査と必要であれば再治療を受けるべきである.もし,プロービング時の出血または排濃がある場合は,最も頻回に診査を行い,再指導と縁下スケーリングが行われなければならない.もし,歯肉炎または歯周炎の進行が認められなければ,チェックアップの期間は6-12ヶ月に一度まで延長できる.スウェーデンでは,歯科衛生士がメインテナンスの多くの部分を担当している.」

9月27日(木曜日)時間: 10:30
講師: K Wretlind
演題: 歯科衛生士のための日常業務と経済.講義.
「 スウェーデンの歯科衛生士は,歯科医療の広い領域で仕事を行っている.口腔衛生指導やアドバイス,歯肉縁下のスケーリングとプロフェッショナルトゥースクリーニングを含め,カリオロジー分野ではリスク評価と原因についての診査といった仕事が従来から行われているチェアサイドの歯科衛生士の仕事である.多くの歯科衛生士が高齢者ホームで治療の必要性を調べ,介護従事者にどのように高齢者の歯牙をケアするべきか教育している.公立の歯科診療所では,歯科衛生士が子どもと成人の両方のチェックアップに大きく関わっている.」

9月27日(木曜日)時間: 13:15 -16:00
講師: G Hansel Petersson, IM Redmo Emauelsson
演題: サリバテストの分析,カリオグラムへのデータ入力.講義と演習.
「月曜日のセッションから採取したバクテリアを分析する.講師はカリオグラムがどのように機能するのかデモンストレーションを行い,参加者は自分自身のデータをこのプログラムに入力してみる.カリオグラムは長期研究で評価され,一定期間内の実際のう蝕発生とプログラムのカリエスリスク評価が比べられた.これらの研究結果を報告する予定である.」

9月27日(木曜日)時間: 16:00
講師: G Bratthall
演題: ペリオリスクファクター.喫煙と糖尿病.講義.
「喫煙者は非喫煙者に比べて,同じレベルのプラーク量であっても歯周病にかかりやすいことが示されている.この事実については様々な説明がされてきている.“過去に喫煙していた者”については,歯周病に対する抵抗性レベルが“非喫煙者レベル”にまで戻っている.スケーリングと外科の両方が行われた後の治癒については非喫煙者に比べて喫煙者の方が悪い.いくつかの研究で糖尿病の1型と2型と歯周病の間に関連性が示されている.良いメインテナンスケアを受けたケースでは,歯周病の再発リスクが糖尿病患者と非糖尿病患者で類似している.また,冠状動脈性心臓病(CHD)と歯周病,肺疾患と歯周病の関連性についても議論されている.我々の講座で行われた研究では糖尿病2型,歯周病,CHD,喫煙の間での関連性が示された.また,閉経後のホルモン代替療法を受けている女性と受けていない女性の歯周病についても議論する.最後に,妊娠中の歯周病と低体重児,早期出産の関係について言及する.」

9月28日(金曜日)時間: 08:30
講師: G Bratthall
演題: 歯周インプラント.講義
「インプラント周囲の炎症(粘膜炎)と骨喪失(インプラント歯周炎)は多くの国で新しい疾患として登場してきた.患者の中には,インプラントが歯の問題の“最終解決策”と考えられているが,我々の経験から,現在,フォーカスはインプラント歯周炎に当てられている.インプラント周囲に出血や膿を伴う深い“ポケット”がしばしば認められ,治療様式はあまり明らかではない.しかし,新しいインプラントの植立と同時に口腔衛生処置は常に行われるべきである.また,持続的な歯周病を持つ患者にはインプラントの植立は決してすべきでないと強調することも重要である.ポケットプロービングなどメインテナンスケアもまたインプラント治療に含まれるべきである.いくつかの研究で以前歯周病のあった患者にはインプラント歯周炎のレベルが憎悪していることが示されているので,メインテナンスケアは歯周炎の既往を持つ症例には,特に重要である.」

9月28日(金曜日)時間: 10:30
講師: B Krasse 演題:歯牙う蝕の歴史:感染性で伝染性の疾患.講義.
「“歯牙う蝕:感染性で伝染性の疾患”.フィッツジェラルドFitgeraldとカイエスKeyesによって1960年に述べられたこのことばは,彼らのハムスター実験に基づいている.その結果は我々の歯牙う蝕に対する考え方と,その後の研究に多大な影響を与えた.う蝕の進行についての食事と頻度の効果に関するヴィペホルムスタディVipeholm studyの知見と共に,う蝕は充填だけでは治療できないということが明らかになった.これらの事実は教育パラダイムに重大なインパクトを与え,カリオロジーという用語が“歯牙修復技術”という古い用語にとって代わった.ミュータンス連鎖球菌群の重要性はよく研究され,スウェーデンにおける最初の菌株はTrelleborgのキャンディ業者から分離された.これは世界的に有名な菌株“Ing-Britt”で,ハムスターにカリエスを誘発することができた.さらにカリエスとミュータンス連鎖球菌の関係に関する研究が因果関係を確立した.この新しい知識は歯牙う蝕についての研究,診断,治療パラダイムを変えることとなった.」

9月28日(金曜日)時間: 13:00
講師: E. Ericson
「人頭払い方式と健康への奨励策.講義. 要約: 出来高払い方式に基づく歯科保険システムは予防よりも“削って詰めて”を奨励してしまう.歯牙う蝕と歯周病の両方が効果的に予防できることから,患者と歯科医師の両方に現在の知識を応用させるようなシステムを見つけることが課題である.スウェーデンでは,州議会の予算によって19歳以下の子どもと若年者は無料で歯科治療を受けられる.スコーネ地方Skaneの95%以上の子どもと若年者が定期的に歯科医院を訪れている.20歳以降は,おそらく費用が高いため,通院率が減少している.次の課題としては,この患者たちが定期的受診を続けようとするようなシステムを見つけることである.本講義では,2004年にスコーネ地方で始まった人頭払い方式のケアを説明する.」

9月28日(金曜日)時間: 15:00
講師: 講師全員
質疑応答.ディスカッション.


2007年マルメ研修参加のみなさまへ 熊谷 崇

今回のマルメ大学研修は、皆様ご存じのとおり、昨年秋に亡くなられたダグラス・ブラッタール先生の強いサポートによってマルメ大学に受け入れていただいたものです。 マルメ大学でもこのような研修セミナーの開催は初めてとのことですが、私どもの研修についての意図を良く理解していただき、歯学部をあげて今回の研修セミナーの成功のために力を尽くして下さると約束していただきました。

私がこのセミナーを企画したとき、まず始めにブラッタール先生にお願いをしたのは、スウェーデンの「歯科医療哲学」を理解できるようなセミナーにしてほしいと言うことでした。歯科医療システムを構築しようとするとき、多くの人は形からはいることが多いように思います。ちなみに、オーラルフィジシャンコースを受講された方は、日吉歯科診療所のシステムを参考にすることが多いかもしれません。しかし、システムを忠実に模倣したとしても、決して患者さんの真の利益につながる歯科診療所として機能することはできません。なぜならば、システムを動かすのは「哲学」だからです。どんな「哲学」をもって歯科医療に臨めばいいのか、皆さんにはこの研修セミナーを通してその答えを各々で考える機会にしていただきたいと願っています。 

ある意味では、それぞれの参加者にとって、歯科医療者としての自分を考えるターニングポイントとなる研修になるかもしれません。そうであってほしいと願っています。ですから、参加の皆さんには、そうした心構えで参加していただくことを強く希望します。物見遊山的な安易な考え方ではなく、単なる自己研鑽ではなく、これからの自身の歯科医療をどう構築すれば患者さんの真の利益に結びつく歯科医療を展開することができるかということを、しっかり学び考える機会にしていただきたいと思います。


マルメ研修2007 9/23~9/30



マルメ研修参加者
マルメ大学





マルメ市内





講義








マルメ大学見学







施設見学










終了証授与式&懇親会























2007年マルメ研修を終えて
 熊谷崇

オーラルフィジシャンコース・マルメ大学研修セミナーが9月24から28日までスエーデン・マルメ大学において予定通り行われました。多くの皆様のご協力のもと、事故もなく無事終了することができましたことをご報告したいと思います。  

今回の研修セミナーは、昨年亡くなられたダグラス・ブラッタール先生がまだご存命だった時からお願いしていたセミナーで、一度はブラッタール先生の体調を考慮して中止となったセミナーでした。「歯科医療の哲学」を体感できるようなセミナーをという私の抽象的なリクエストに対して、ブラッタール先生は本当に一生懸命に考えてくださっていたようで、お亡くなりになる直前まで、このセミナーのことを気にかけてくださっていたと、今回奥様のグニラ先生からもお話をうかがいました。  

そのような経緯を踏まえて開催されたセミナーでしたが、ブラッタール先生の想いを良く知っている、マルメ大学カリオロジー科教授のダン・エリクソン先生、歯周科教授のグニラ・ブラッタール先生を中心にしたプロジェクトチームが、お願いした私ですら驚くような、予想以上によく練られた内容の濃い、しかも飽きさせることもない進行で、今日のスウェーデンの最先端の予防的な歯科医療の考え方を示しながら、参加者のすべてに「歯科医療の哲学」が何であるかをしっかりと感じさせるセミナーとなっていました。セミナーの冒頭に、エリクソン先生が「ブラッタール先生の魂を伝えるセミナーになる」とおっしゃっていた通りの内容だったと思います。  

歯科医療においては、豊富な知識や確実な技術はもとより、臨床にあっては診療システムの構築やスタッフの教育など、さまざまな要素を集大成して取り組まなくてはなりませんが、何より大切なのは、誰のためにどのような歯科医療を目指すのかという哲学が明確になっていることです。それが明確になっていれば、自分が何をすべきかよく理解でき、歯科医療者として筋の通った行動ができるはずだからです。  

私は、ブラッタール先生との長いおつきあいの中で、そうした歯科医療哲学を示して下さるのは、先生以外に適任者はないと信じていましたし、そのようなセミナーをマルメの風を感じ、そこに住んで生活している人々の息づかいや街のたたずまいを見たり感じたりすることによって、より理解が深まるのではないかと常々考えていました。結果は、私の思った通りでした。マルメ大学歯学部としてはこうしたセミナーの開催は初めてとのことでしたが、大学側の全面的な支援を受けて、大変快適にそして充実した5日間を過ごすことができました(今回のセミナー開催については、マルメ大学のHPにも早速掲載されています)。  

また、参加者の皆さんも、今回のセミナーの趣旨を良く理解して、本当に良い受講生だったと思います。時差もありながら、居眠りする人もなく、勝手な行動をして迷惑をかける人もいませんでした。全員が心一つに五日間集中しきったと言っても良いかと思います。日に日に、参加者の顔が引き締まっていくのが分かりました。  

私は、マルメ大学関係者の皆さんとともに、参加したすべての皆さんにも、厚く御礼を申し上げたいと思います。そして、この経験を良い機会に、もう一度マルメで学んだ歯科医療哲学に自分の臨床を照らし合わせて、それぞれの目標達成のために今後の計画を再検討していただければ嬉しく思います。  

来年7月4~6日に行われる恒例のチームミーテイングに、エリクソン教授をお招きすることも決まりました。通常の日程の前日(金曜日)に一日講演していただく予定です。今回参加できなかった方も、是非ご参加いただいて、北欧、マルメ大学の歯科医療の考え方を大勢の方々にお聞きいただきたいと思います。


参加者の感想

「健康を敬う」基本的社会基盤に大きな感銘を                    太田貴志

福祉の先進地域といわれる、北欧、大きな期待を持って、スェーデンを訪れました。今回のマルメ訪問は私にとって期待以上につよい衝撃を与えてくれました。
やはり、その根底にあるのは、健康を敬い、それを生涯にわたって維持しようという社会的基盤であると思います。社会全体が、健康維持の重要性を認識し、国を挙げて取り組んでる様子が、しっかりとその制度に現れていたのではないでしょうか。
Dan Ericson先生をはじめとするマルメ大学のスタッフの方々の熱意ある講義は、Douglas Bratthall先生のその「思い入れ」の並々ならぬものであることを感じ取ることができました。"World leading dental education"の名に恥じない教育を担っている教師陣をまるで我々が独り占めしたような感じで受けることができたのは、Bratthall先生と、熊谷崇先生の強い絆のおかげと感謝しています。

今回の一連の講義を受けて、強く感じた点は
1. RISK ANALYSIS,RISK ASSESMENTを確実にできる診療システム
2. RISK ASSESMENTの内容を確実に患者に伝えることのできる知識とコミュニケーション能力
3. RISK ASSESMENTを把握した上で、患者さんに提供する、適切かつ正確な基礎的施術
の重要性です。

K.I.S.Sも印象的でした。基本的な事柄を確実に積み上げて、確かなものを構築していくこと、そのことは私たち医療に携わるものにとっては最も基本的で、大切なものであることを、肝に銘じていきたいものと考えます。個々の医療人が自分がまずなすべきものは何なのか、考えることなしに社会は変わらないのではないでしょうか。大学教育にしても然り、福祉行政にしてもしかり、原点は、個々の医療に対する姿勢なのではないかと、そんな気がしてなりません。

スウェーデンの社会を羨望の目で見ると同時に、そんなことを感じました。
今回の、このような機会を作っていただいた、熊谷崇先生、大竹喜一氏、そし故Douglas Bratthall先生に大きな感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。

マルメ大学研修アドバンスコースに参加して                     佐々木英夫

出発前に熊谷先生より、「歯科医療の技術やシステムを学ぶのではなく、歯科医療哲学を学んでほしい」というお話がありました。これは、単なる自己研鑽ではなく、これからの自分の歯科医療をどう構築すれば、患者さんの真の利益に結びつく歯科医療を実践する事が出来るのかを、しっかり学び考える機会にしてほしいというメッセージでした。今回の研修に参加する事によって、自分なりの歯科医療哲学を考える機会にしたいと考えます。

1. カリオロジー, MI
患者さんはう窩を充填してもらうことを期待して来院します。しかし、「充填したからう蝕の感受性がなくなる訳ではない。う蝕の原因がわかれば、対策を施す事ができるであろう。」これは、100年以上も前に、G.V.Black先生が言っていた事である。(Black to the future!!)その当時から、う蝕とはなぜなるのか、リスクを考える事を示していたようです。今までの日本の教育は Black先生から何を学んでいたんだろうと、怒りさえ感じました。私たちは、疑問も持たずに簡単に充填を繰り返してきた訳だから。その結果、スウェーデンでも治療の70%が補綴物の再治療であるとのこと。きっと日本ではもっと多くの時間を費やしているに違いないと思われます。カリエスの進行は考えているよりもずっとゆっくりであるため、象牙質カリエスが出来ていても充填するのは良くないケースもある。
再治療もなるべくやり直しをせずに、リペア処置することを選択するべきと強調されていました。

では、発症を予防するために一番効果があるものは何でしょうか?
まずはリスクを調べ、アタック側の要因とデフェンス側の要因のバランスをとること。それを効果的に進めるためにはカリオグラムを利用することも大切で、一番リスク改善に関係するのはフッ素のようでありました。
フッ素に関しては、自分は今までフッ素入り歯磨剤が最も効果があると理解していましたが、0.2%フッ素洗口が一番効果があるとのことでした。歯磨剤をすすめることは簡単ですし、もう一つ洗口を実践してもらう事は面倒に思われがちですが、大事な事だと思います。また、フッ素入りミネラルウォーターも効果があるとの事。日本での水の購入実績は年々向上しているようですから、これも日本で認可されれば、予防グッズに加える事が可能になるようです。
ミュータンス菌に関しては、 CHXジェルをすり込むことが除菌に関して効果があるようですが、高濃度のものは、日本での使用が認められていないため、早く使用できるような働きかけも重要な事であると感じました。 また xylitolも効果がありますが、特に出産後3ヶ月からガムをかむ事によって、子供の5歳時の dmfは 70%少ないとの事でした。妊婦への対応が大事な事を学べました。
う蝕の診断に関しては、デジタルレントゲンの場合、スクリーンと照明が大事で、 PCのモニターは通常の5倍の値段を出して高性能のものを使用し、部屋の照明は暗く(10ルックス)しないと、正確な診断は難しいとの事でした。早速診療室の環境整備も必要です。

歯科医療の基本的な考え方
「補綴には多くの時間と費用を費やす。健康な状態を維持することにお金を出せるのか、出せるように教育するのが歯科医療である。」

2. ペリオドントロジー(リスク把握の重要性)
歯周病に関しても予防を取り入れ、かなり発症予防の効果が出ているようである。子供の頃から定期的なメインテナンスを受ける事で、重度の進行する人はごく少数で、特にリスクが高い人しか起こらないといいう認識のもと、 CHXを上手に使用しているようです。治療よりもリスク把握が重要と考えていることがわかりました。

3. 学生教育(歯科医学教育、歯科衛生士教育) PBL
歯学部は5年、歯科衛生士は2年。
歯学部は、1年生の時から患者を診ている。5年生は患者さんの診療ばかりしている。 PBLを取り入れ、スウェーデンの教育機関で NO1の評価を得られたとの事。日本の見学だけの教育では即戦力の Drは育たない訳であると実感しました。

歯科衛生士は卒業までの2年間で50ケースほど実践するようであり、卒業したらすぐに開業できるようである。しかし、経験も大きな要因であるため、最初から自立するケースはまれなようでありました。
講義の形式は、 PBLという方法を採用しており、これは教えられるという形から自分で考えるという形への変化であり、これは実際に困難に直面したときに効果を発揮しそうで、院内ミーティングにも取り入れられそうでした。ただ、ちょっと難しそうで経験も必要な感じがしました。

4. 訪問研修
公立デンタルクリニックと子供デイケアセンター(幼稚園)、高齢者ケアホームを訪問研修しました。福祉国家と聞いてはいましたが、どの施設もすばらし環境でした。子供の医療費は20歳までは矯正治療も含めて無料。老人を看護される人数も十分でみなさんその道のプロとしてプライドを持って仕事をされている姿には感動しました。ただ、これを支える国民の税金はかなり重いと聞き、日本人が消費税をあげる事に目くじらを立てている事と対比すると、国民性も大きく関係するのではないかと思い、日本での実現は難しいと思いました。日本と比べて、どちらが住みやすいかは疑問ではありますが、年をとったらスウェーデン!で決まり。

5. 歯科衛生士の日常業務と収入
疾患が多い時代は Drの需要が多かったけど、疾患が減ってくればくるほど、 DHの需要が高まる。スウェーデンでは DHのことを Mini-dentistと呼ばれており、口腔衛生のほとんどをまかなうのが DHで、 DHでまかないきれない場合が Drの役割との事でした。どのDHもスペシャリストとしての自覚がとても強い事を感じました。浸潤麻酔もレントゲン撮影も許されている環境と日本との違いに驚き、同じ DHという仕事をするのに、これだけ認識に差がある事を早く改善してもらわないと、「健康維持の担い手 DH」のうたい文句は絵に描いた餅になりそうと感じました。

6. 人頭払い方式(capitation system)
スウェーデンでは、人頭払い方式の拡大を進めているようです。これはリスクに合わせて年間の医療費を決めて医療を提供する方法で、この capitation systemはすべての人々、住民にも歯科医師のためにもなる制度であると力説していました。歯科医療は最も重要な医療であり、すべての人を健康にしたいという強い思いがこのシステムを考えださせたものと思いました。日本での制度化は大変難しいように思いましたが、各個人診療室が個別にリスクの高くない人からはじめて見れば、利用も可能な感じがしました。

7. まとめ
カリエスの進行はゆっくりで、診断は困難。早期の治療は良い事ではなく、再治療をおこなう場合は、やり直しではなく、リペアを考える事。悩んだ場合は処置せず経過を観察する事が良い選択である事。修復機会が減れば減るほど、健康は維持できやすい環境が整う事。予防にお金を使うように教育する事が歯科医療の重要な仕事である事が良く理解できました。
マルメ大学の講師の先生方は、とてもユーモアにあふれた講義をしていただき、とても楽しく興味深く講義を聴く事が出来ました。今回の研修に参加して多くの事を学ぶことができました。また新しい友人も出来ました。今回参加する機会を得られ本当に良かったと感謝いたします。ありがとうございました。

マルメ研修を終えて                                     斎藤直之

歯科医療の哲学を感じ取ることができるか?
スェーデンのシステムを知り、今後の私たちの活動に生かすことができるか?
理想とその実践のギャップをどのように埋めていけばいいのか?  
私たちは何を目指さなければならないか?  
哲学を形にする作業をどのように進めていけばいいのか。

私は、この研修に出発するにあたり、このような課題を解決したいと考えていました。今回の研修は、これらの問題に対する答え、確信、大きなヒント、これから実践していくための強い後押し、自信を得ることのできる実り多い研修であったと思います。

今回の研修は、人と人の信頼関係が作り上げたすばらしい研修であったと思います。目標の共有がもたらす一体感が最初から最後まで感じることのできる充実した時間を過ごすことができました。さらに、マルメ大学をはじめ、見学にいった施設の人たちの暖かさを感じました。それは、熊谷先生とブラッタール先生の強い絆が作り上げたものだと感じることができました。

人々の生涯の健康を守り育てるということがどんなことなのかを実感することができました。本気でそれを実践しようとしている姿に触れることができ、それが歯科医療の哲学であり、スェーデンのシステムであると感じることができました。

それを診療室として、歯科医師として、どのように表現していくことが大切なのかを考えさせられました。また、その表現が、患者さんに、市民の方達に伝わらなければならないということも実感できました。

地域を変え、日本を変えていくためには何をしなければならないのかとてつもなく大きな課題を抱えることになったようにも感じます。しかし、それができそうなイメージを感じることができたように思います。若い世代からどんどん変えていき、日本全体を変える。世代を超えた時間がかかるプロジェクトであると思います。次の世代にどのようにつなぐのか?次の世代で引き継いでくれる人々を育て、うまく繋いでいくために私自身は何をすればいいのか?とても大切で大きな課題だと感じました。

今まで一生懸命、健康を守り育てる診療室づくりをしてきた。今回の研修をとおして、カリオロジーに基づいた、メインテナンスをしていくことを基本にしたメディカルトリートメントの実践は間違いないとの確信を得ることができました。もうどんなことにも負けない。そんな確信を得ることができました。 
すなわち、私たちがいままで行ってきたことは当たり前のことなのだということが確認できました。また、今私が感じていることをいかに簡単に、当たり前のこととして患者さんたちに伝えることができるか。そのことが最大の問題だと感じました。

エリクソン先生やマルメ大学のスタッフの方たちが私たちに伝えてくれたように私たちも次世代の歯科医師、歯科衛生士、スタッフ、市民の方たちに簡単に、明確に、しっかりと伝えていかなければならないと思いました。そのため、歯科医療の哲学を明確に持ち、それを形にしていくたえまぬ努力をしていかなければならないという使命を感じることができました。とても幸せな研修だったと思います。  

熊谷先生、ふじ子先生、エリクソン先生、マルメ大学のスタッフの方々、日吉歯科のスタッフの方々、大竹さん本当にありがとうございました。

マルメ研修 備忘録                     伊藤 直人  

スウェーデンのMalmo大学での研修、Malmo大学と言えばう蝕原因菌を発見したBo Krasseを代表とするカリオロジーの大家がそろう大学。そんなMalmo大学での研修、是非との思いで参加させていただいた。あらかじめ配布された講義内容のスケジュールは、う蝕学を中心としたプログラムや施設見学など期待をふくらませる内容だった。 空港で配布された熊谷先生からのお言葉でさらにその期待は膨らんだ。  

患者さんの真の利益につながるのは、「診療システムの模倣」ではなく「哲学」をもって診療に挑むことである。今回の研修目的は「歯科医療哲学」を学び自身で構築、そして展開することにある。その旨を伝えてあるのでしっかりと学び考える機会にしてもらいたい。 との内容である。
哲学こそが道を映し出し求める方へと導く。1を見て10を知り、多くの吸収し歯科医療の芯となる考えを再構築したい。  現地集合現地解散のため、10時間ほどかけ成田よりデンマーク(コペンハーゲン)へと向かう。コペンハーゲンからはデンマークとスウェーデンを結ぶ全長16kmの橋を渡る。海岸沿いには風力発電の風車がいくつも連なっている。今回の宿泊先はHilton Hotel。マルメの繁華街と大学に挟まれる好立地のホテルだった。  

到着後はレセプションパーティーが開かれた。このセミナーは昨年の秋に亡くなられたダグラス・ブラッタール先生の強いサポートの元に成り立っており、彼無しではこの機会は得られなかったとのこと。是非一度お目にかかって感謝を伝えたかった。僕らに出来るせめてものお礼はより多くのことを吸収し、歯科医療に貢献していくことだと思う。

1日目  日本とは8時間の時差があるため、早く目が覚めた。朝食までの間、肌寒い街へと繰り出す。田舎の街を想像していたが、実際には繁華街にはいくつもの洋服店や喫茶店が並び景色の一つ一つに深みを感じる。  ホテル朝食は日本食も用意されていたが、パンやチーズそしてヨーグルトなどが美味しくついつい沢山食べてしまう。  

マルメ大学へはホテルから10分ほど歩いたところにある。大学の裏門には抜歯鉗子を持ったマリアが描かれていた。
講義は大学の教室で行われた。1日は大きく分けて4つの講義に分かれる。

スウェーデンで印象に残った一つが時間の使い方だ。働く時間が短い上に休憩を良く挟む。1時間半おきに30分の休憩を挟みそのたびに軽食を取る。それでもっと昼はしっかり1時間半休む。マルメ研修が終わる頃にはすっかりスウェーデン時間に慣れてしまった。きっと、こういうところから心のゆとりが生まれるのかもしれない。

9:00 イントロダクションと研修の目的 講師:D Ericson
D Ericson先生がブラッタール先生の意志を継いで今回のセミナーを取りまとめて下さった。知的でユーモアを持ち合わせ、多大な人間的魅力を持ち合わせる素晴らしい先生である。授業の内容は非常に衝撃を受けた。少しだけ概念を列挙する。

・治療行為を行うよりも本当の健康増進が大切
・歯科が最も重要な医療である。
・充填は原因の除去ではない
・治療に対して費用が払われるのは古い話である

とのことである。その概念的な話の後は、歯科治療に対して実際どのように対応していくかといった内容が続いた。マルメ研修のなかで最も印象に残り、彼自身が常に言い聞かせていると話していたKISS(Keep It Simple Stupid)の概念の通り、難しいことを簡単に教えるような授業であった。

30分の休憩を挟み(コーヒー、サンドイッチを食しながら)、次の授業へと移る

10:30 歯科衛生士教育プログラム 講師:K Wretlind, P Carlsson, L Gassner  
問題解決型学習の概要と実際の話のあと、歯科衛生士教育の内容を学んだ。
歯科衛生士の医院での教育に役立つ講義だった。また歯科衛生士はやはりアメリカと同じで浸潤麻酔なども行え(場合によってはカリソルブでカリエスを取ることも)、自分で開業することも可能であるようだ。そして、学校を卒業するまでにもしっかりと患者をもつようだ。

昼食(ローストビーフ)

13:30 リスク評価 講師:G Hansel-Petersson, IM Redmo Emanuelsson  
D Bratthall の開発したカリオグラムは複数の因子に比重をかけ、リスクを評価するために、予防処置において有用性がある。また、このリスク評価プログラムは子供達のリスクを分けることができそれが実際のカリエス罹患と関わっていることがわかっている。  

どうしてカリエスリスク検査を用いるのか?
1.より正確なカリエスリスク評価を行う
2.患者に治療をすすめる際に診断の補助となる
3.患者自身の防御因子と攻撃因子にインフォメーションを与え、それによって患者をモチベートするとのことである。

授業の休み時間に入り込んだ趣のある大講堂。熊谷先生が名誉学位を授与された際、記念講演された場所。その際にはD Brattall先生は最前列で涙を流していたとのこと。



15:30 カリエスの進行 講師:P Carlsson, D Ericson
カリエス進行についての研究では、僕らが思うよりよっぽど進行が遅かった。若い人たちのカリエスの進行(中央値において)はC1からC2まで進行するのには8年の歳月を要し、さらに象牙質の1/2に達するのには3?4年はかかるなどとのこと。その他にも、デジタルX?rayの欠点や出来高払い・人頭払いの違いによるカリエス除去の基準の個人差などおもしろいトピックが沢山あった。

そして、カリエスを減らした原因としては1.フッ素の使用2.カリエス進行が遅いという事実を知ること3.修復をおくらせたこと4.充填の破折などの悪い結果が減ったこと などであるとのこと。  
カリエス治療の基準や考え方の変わる印象の大きな授業だった。  

授業は17:00に終わり、ホテルへと向かった。その後は外へ出かける。マルメ繁華街の店は18:00になると閉店する。日本では考えられないが、それだけ仕事よりも余暇に重点を置いているのだろう。本当に素敵な街並みだ。外から見えるアパートの窓、日本の様な青白い蛍光灯色はどこにも見られない。全て間接照明の暖色が心までも暖かな気持ちにさせる。  
夕食はMANDOというステーキレストランへと行った。小さいステーキを注文したのにもかかわらずボリュームもあり美味しかった。



2日目 8:30 いつ修復するのか?歯科医学におけるMI 講師: D Ericson  
彼の講義はどんなトピックでも面白い。現在、いつカリエスを除去するかといったガイドラインはない。といった切り口から始まり、"修復の閾値"には沢山のファクターが影響を与えているという。そのファクターには修復の報酬と予防の報酬のレベルも含まれるのだという。そして、大規模な調査にて早期の修復介入は、全く何もしない場合よりも歯牙に有害であるというデータが出ている。つまり、予防の報酬レベルが低く早期介入が行われている場合、7-9年後の二次カリエスにおいて多く歯牙を失ってしまう。

これだけでなく他にも興味深いトピックは多々あったが、日本の現状と未来像を考えさせられる講義だった。まず、自分にいま何が出来るのか、そして将来何が出来るのか、しなければいけないのか。自ずと答えは心の中で浮かんでくる。

10:30 深いカリエスに対する処置 講師:A Lager  
深いカリエスが存在した際に、軟化象牙質を残して水酸化カルシウムを置き、グラスアイオノマーにて完全に封鎖すると、象牙細管からのミネラルによって軟化象牙質は硬化するといったStepwise Excavation。病理学・生理学的な説明が面白かった。

昼食はスウェーデンの典型的家庭料理、キャベッチパディングを食べた。ハンバーグの上にキャベツがのっているような料理。非常に美味しくついついお変わりもした。通称、カロリーオーバーと呼ばれるらしい。。。

13:15 薬剤と疾患パターン 講師:G Bratthall, D Ericson    
歯科疾患に悪影響を及ぼすいくつかの薬剤やそれに対する対処法を学べた。こういったところでも高濃度のフッ素は頻繁に用いられている。

15:30~ マルメ大学歯学部の見学





教育設備が充実していた。学生が治療のユニットも全てパーテションで区切られており、パソコンの配置なども面白かった。廊下には薬剤がかかってしまったときのためか、緊急用のシャワーが設置されていた。
写真に見られるビニールシートは根管治療の際に患者の衣服にかけるシートとのこと。図書館では頭蓋模型も貸し出しがあるとのこと。消毒室にはドアを足であけられる用のボタンがある。あらゆる所の壁に、緊急用の絆創膏と人工呼吸用のマウスパットなどが置いてある。学生が診療の際にトラブルがあれば壁のボタンで先生を呼び出すようだ。

夕食は綺麗な広場でインドカレー料理を食べた。こちらでは寒くても外で食事を食べることを好むようだ。非常に雰囲気も素敵で、他の先生方との熱い熱い会話もはずんだ。この研修の最大の利点はこういった先生方との出会いだと思う。何よりも勉強にも励みにもなる。



3日目 子供デイケアセンター訪問  
日本で言うと保育園の位置づけ。歯科に関して予防的なことを行っているかと尋ねると、決してそうではなかった。保育園の役目ではなく公立の歯科医院の役目とのこと。  
最も驚いたことは、スウェーデンの教育方式。保護者は子供を野外で過ごすか屋内で過ごすかを選べる。野外の場合は雨が降っても雪が降っても外(ドアのない小屋があるが)で過ごす。屋内を選んでも1日5時間は外で過ごすとのこと。  
今回の旅行を通して、スウェーデンの生活には沢山自然に触れあうような時間が取り込まれているように感じた。



公立デンタルクリニック Public Dentistry Sodervarn Malmo  
マルメにある15の歯科診療所の一つ。治療室が6つあり、5人の歯科医師と2人の衛生士そして8人の助手が勤務している。見学はしなかったが近くには補綴科、歯周病科、根管治療、歯周病科もあるらしい。  
20歳までの子供は治療費が無料とのこと。そして、出来高払いではなく人頭払いになっているので治療してもしなくても歯科医院は同じとのこと。メインテナンスには90%の患者が通っているとのこと。
成人になると、人頭払いか出来高払いかを選択できる。人頭払いの場合、リスクによって支払が変わる。4つのリスクに分かれ、ハイリスク(5%)ならば6ヶ月に1回検査を行い毎月2万円支払う。ローリスク(60%)ならば18ヶ月に1回検査を行い毎月850円支払う。もちろん、検査以外にスケーリングやクリーニングにも訪れるとのこと。万が一治療が必要になった場合、患者はこれとは別に技工代を支払わなければならないとのこと。また、インプラントはこの保険に含まれるが審美治療や矯正はカバーされないとのこと。話は変わるがmalmo大学の先生にこちらの治療費を尋ねたところ、歯科医師1時間あたり3万円、歯科衛生士1時間あたり1万5000円が大体の目安とのこと。  
このクリニックだけではなく、1人2週間に30分間はマッサージ師によるマッサージが受けられるとのこと。消毒室の角にはカウンターがあり、そこから使用済みの器具を出せるように作られていた。



高齢者ケアホーム、ターニングトルソ  
健常者の高齢者施設と健康でない高齢者のケアホームをそれぞれ訪れた、驚いたのは公立の施設ながらその設備のよさ。健康でない高齢者のケアホームでも部屋がだいぶ広い。高い税金を払うのも、老後のケアが充実しているからと聞いていたが、実際に見て納得した。  
ターニングトルソは以前のスウェーデンの象徴であった、コックム(貨物用クレーン)の跡地に建設されたスウェーデンの新しい象徴とのこと。人間の体をひねった様子を元にデザインされ、実際に建物自体大きくねじれている。  

3日目の夕食も、忘れられない楽しくて熱い会話と美味しい料理で素敵な1日の締めくくりとなった。
スウェーデンに来て日が増すにつれ、スウェーデンに来たのが偶然ではなく必然のように感じてきた。ある種の使命感が芽生えてきた気がする。歯科医療者としてのターニングポイントなのかもしれない。



4日目  
D Ericson先生が付けている、ラウンドバーを曲げたピンバッチが配布された。
この研修の象徴とも言えるバッチだ。  

8:30 メインテナンスとは何か? 講師:G Bratthall  
メインテナンス=サポーティブペリオドンタルトリートメント  
治療後の最初の1年間は3ヶ月毎、その後は3~12ヶ月毎(場合によっては毎月のこともある)。  
衛生士の予約は大体が1時間とのこと。  
特に新しいことはなく、再確認といった感じ。  

10:30 歯科衛生士のための日常業務と経済(患者負担費用 vs 給与) 講師:K Wretlind  
歯科衛生士が行っている準備的な仕事の中には局所麻酔や暫間充填およびクラウン、ラバーダム、X線写真撮影などが含まれる。また、歯科衛生士ができないことだが実際にはやっている場合がある仕事には充填、カリエス除去、カリソルブ、ステップワイズエキスカベーション、カリエスのドリリングなどがあるようだ。しかし、近年ではこれも行わなくなる方向にあるという。  
経済的にはチェアを借りる形で歯科医院に勤務するものもおり、新卒の衛生士で給料は35万円程とのこと。

昼食(ミートボール、ソーセージ)
マルメTシャツの配布

13:15 サリバテストの分析 カリオグラムへのデータ入力
講師:G Hansel-Peterson, IM Redmo Emanuelsson  
実際にカリオグラムを用いて分析を行う。そう言えば、3年前にこの教室のホームページを訪れてこのプログラムについて調べていたことがある。当時はまさか訪れるとは考えてもおらず、感心しながらみていた。
講義は普通ではわかりにくいような細かい設定が勉強になった。教育のツールとしてはうってつけだと感じた。

15:30 カリエスリスク、ディスカッション 講師:G Hansel-Petersson  
カリオグラムに関して現在行われている研究の話などを伺った。研究結果が待ち遠しい。

16:00 ペリオリスクファクター 講師:G Bratthall  

研修終了後はマルメ市内へと観光へ出かけた、マルメはスウェーデン第三の都市で、古くから交易で栄えた街のあちらこちらで歴史のなごりが見られる。

サンクト・ペトリ協会   14世紀に作られた赤煉瓦のゴシック建築  真ん中に見えるのは88mの塔でチャペルとなっている。   


マルメ城  沢山の緑地と堀に囲まれている。ルネッサンス様式の建物。今では美術館や博物館となっている。15世紀に建てられたスカンジナビアに残っている最古のお城。刑務所として使用されていたこともある。

ストーラ・トリエット広場  街の中心で北欧最大の広場と呼ばれる。右の写真は広場中央に置かれた、デンマークとの戦争時に活躍したカール10世グスタフ王の騎馬像。


 夕食は現地のお店で聞いたVICTORという素敵なお店で食事をした。食べているのはスウェーデン料理のステーキ、温かいイチゴソースのかかったクリームブリュレは絶品だった。  
スウェーデンのゆったりとした時間の流れにもなれ、とても心地が良い。この雰囲気の中で共に研修を積んできた素敵な先生方と将来を語る、スウェーデンで得た知識を整理しながらそれぞれ自分なりの明日を探る。これがまた活力となり、楽しみにもなる。  


5日目
8:30 歯周インプラント 講師:G Bratthall
10:30 歯牙う蝕の歴史 講師:Bo Krasse
13:00 人頭払い方式と健康への奨励策 講師:Ewa Ericson  
スウェーデンに来る以前から非常にこの講義に興味があった。日本にどのようにしたらこの制度が取り入れられるのか?どうしたら95%以上の子供と若年者が定期的に歯科医院を訪れるのか?そして20歳以降はどうなっていくのか?今回の研修の要となる講義の一つだった。これもまた歯科医療としてのターニングポイントになるような授業であったかもしれない。

総括  
このSweden研修は熊谷先生が仰ったとおり、自分自身の歯科医療者としてのターニングポイントとなった。本質的な歯科医療とは何か?それは単なる対処療法ではなく原因除去療法であること。そこには単に理解しシステムとして機能させるだけでなく、一医療人としての使命感と哲学が必須となる。さらには哲学とシステムを一医療人だけでなく、一組織として機能することが真の患者利益へとつながる。

中国の古いことわざに "小医は病を医す。中医は人を医す。大医は匡を医す。"という言葉がある。今日の日本は小医の段階で病を医している疾病中心型である。スウェーデンでは人を医す段階から、匡を医す段階へと移行している時期である。歯科医療の大きな流れとして自分に何が出来るだろうか?

今の自分に出来ること、しなければならないこと。それは疾病中心型の段階から予防中心の段階へと引き上げ立証してきた先人の知恵と意志を引き継ぎ、自分なりに確立することである。そして確立した暁には、それを飛躍させて次の段階へ引き上げるべきなのであろう。  

今回の研修を通じて、情熱的で素晴らしい先生方、沢山の助言を下さった先生方と出会えたこと、そしてこのような機会を与えてくださった熊谷先生、そして今は亡きD Bratthall先生、この研修を影でサポートしていただいた方々に感謝の気持ちをこの場をかりて述べさせていただきたい。

オーラルフィジシャン アドバンスコース スウェーデン・マルメ研修を終えて        高橋 周一

今回の研修は私が今まで経験してきたどの研修でも味わったことのないほどの 魂 を揺すぶるものでした。かつて10年以上前に熊谷先生の講演を初めて聞いたときのあの感動の原点を垣間見たような気がします。
この研修中常にD.ブラッタール先生の魂に見守られ、哲学に触れているようでした。私は神様を信じたことはありませんが人の魂には勝手にふれてしまい自分の生に深くかかわることがあります。
私のこれからの人生と歯科医師としての振る舞いに大きく影響がでることに疑いの余地はありません。

日本での歯科教育制度、医療制度、実際での臨床にみられる余りに不安定な環境の数々に自分を見失ってしまう歯科医師や衛生士も多いのではないでしょうか。
誰のために、何のために歯科医療に関わる道を選んだのか?各大学や卒業後に過ごした環境の中で、患者の口腔内から多かれ少なかれ歯を失わせていく行為によって、目の前にある小さな利益を早急に得るべく日々を過ごしているように思えてなりません。 
対して北欧の中のスウェーデン・マルメ大学での教育は科学と哲学に支えられ人間性を重視した、太くて長い歴史の積み重ねによるものだと体感しました。

講義の詳細は他の先生に譲ることとし、講師としての憧れを感じてしまうほどの知性と抜群のユーモアのセンスを持った(フセイン氏にジョージ・ルーカス氏をたした様なイメージの)D.Ericson先生をはじめ、歯科の歴史と哲学をその穏やかな表情に秘めて歩くその足取りに胸が熱くなる1922年生まれのBo Krasse先生までものすべての講師の先生がたが、我々に惜しみない情熱と優しさを示してくださいました。

保育園での教育の中に自然の木々の中で雨の日も雪の日も育てるという環境の提供や、高齢者のための施設での取り組みに国を挙げて真面目に取り組んでいる姿が目に焼きついています。
税金の高さは日本の比ではないですがその税金が国民の生活に役立つように厳しく管理されているようで、我々日本での税金や公金の扱いかたと比較して情けなくなるばかりでした。
カリオグラムでの実習中に見つけた小さなことがありまして、通常あるリスク値を増やすとカリエスを抑える%が低くなりますがその逆になるパターンを見つけました。気にすることのないような値ですが、D.Bratthall先生の穏やかな笑顔を見た気がしました。

カリエスからペリオをはじめとした数々のリスクとその対処やリスク分類に応じた医療保証制度(Capitation )の試みなどまですべての講義の中に我々を包み込むような母性の愛情があったように思います。
最後の懇親会と終了式の席で熊谷先生からD.Bratthall先生との最後の晩餐での言葉を聞いたときには涙を抑えることができずにぼろぼろと泣いてしまいました。
まだまだ自分にはやらねばならないことがある。時間もある。もう迷いも恐れもありません。今は亡きBratthall先生の志を少しでも受け継ぐものとして積極的に前に進みます。

いかなる診療行為もその根底には 健康な歯を守る ということによって真の患者利益を追求するためにあるということ、真の患者利益こそが我々に歯科医療従事者としての真の利益を生み出すということ。
日本においてはところどころ素直になれないような硬い土に覆われているところがありますが、今回の研修では、天から降る栄養たっぷりの天然水を吸い込んで地を固めたような気がします。詳細を述べるより、ただただ 正しい道を前に進むことの重みをこの身に染み込ませた感じです。

最後に今回の研修に参加する機会を与えてくださいました熊谷先生には有り余る感謝の意を表します。 また西先生と通訳の方には数々の質問を的確に伝えていただき本当に助かりました。英会話勉強します。
いつも講義の合間のティータイムにやさしくしていただいた背の高い女性に ありがとうございましたの一言を言うチャンスを逃したことだけが悔やまれます。
またマルメ大学を訪れるときにいてくれるでしょうか?

今回共に勉強をした先生方や衛生士の方々にも良い時間を過ごさせていただき感謝しています。またお会いいたしましょう。
それでは お元気で。ありがとうございました。
                                       2007年10月1日 午後11時55分  

Advanced Dental Health, オーラルフィジシャン Course in Maimo研修を終えて
~「あたりまえのことをあたりまえに行う人間性」~
                                                  伊藤 智恵

1994年、D. Bratthall先生の講義を伺い、サリバテストを自分の臨床に取り入れて以来、マルメ大学で学ぶことは大きな夢でした。その夢がようやくかないました。非常に悲しいことに、Bratthall先生はちょうど1年前に彼岸に逝ってしまわれましたが。でも、Bratthall先生が真心を込めて用意してくださったプログラムは、Dan Ericson先生を中心にした豪華な講師陣に、完全に引き継がれていたと感じました。

フィロソフィを学ぶのが本研修の目的と、熊谷先生は述べられました。 自らが日常行っている歯科医療のフィロソフィを再確認すること、そして、医療人としての資質を再確認することが、私の研修目的でした。目的は達せられ、強力にエンパワーメントしていただくことができました。

スウェーデンは、「福祉の国」「医療の国」「デザインの国」という修飾語をつけて語られることが多い国です。私たちの分野で言えば、「予防先進国スウェーデン」とでも言えましょう。 それぞれの断面を見ると確かにその通りです。でもこの地に来て、この地の人々に触れ、コミュニケーションすると、そういった断面で物をとらえていては、最後まで本当のところを理解することができないだろうと気づかされました。全体的に見なければ、本質は理解できません。
「カリエスを全体的に見なさい」というブラックの言葉は、スプラシステムを見るときにも、そのまま当てはまります。スプラシステムとサブシステムを鳥瞰した見方が求められるはずです。本研修の講義においても、それを意識した論理立てがなされており、ほんとうに感心しました。

短期の滞在で感じたスウェーデンの全体像。それは「あたりまえのことをあたりまえに行う人間性」ということです。

「患者さんの健康をどう守るか」という核になる理念のもとで研究も臨床も教育も行われる歯科分野。
「すべての命の尊厳を尊ぶ」ために行われる医療分野。
「老若男女障害の有無を問わず、すべての人が安心して生活できる」福祉分野。
「たとえ低所得であっても快適で清潔で安らげる住環境」が保証される住宅分野。
「近隣との美しい調和、全体としての調和、環境との調和」に配慮される景観やデザイン分野。
それらがすべて、有機的に結びついています。そのどれもが、人が人間として生きるにあたって、あたりまえであることを、なんのてらいも気負いもなく、あたりまえに実現していくことを当然と考える人間性、国の姿勢によってなされているのだと感じます。
日本で意味される「医療」「福祉」「景観」「デザイン」という言葉を使って単に「進んでいる」という表現をしたくらいでは、全く及びもつかないクオリティです。根本的に違う社会性、人間性を感じさせられます。

もちろん、歴史的背景、文化的背景、法律的観点が違いますから、日本と単純に比較することはできません。でも、少なくとも歯科医療行為においては、そのまま実現できるはずです。少なくとも私たちは、同じ知識を共有し、同等の器材を持ち、十分な技術を獲得し、「患者さんの健康をどう守るか」をすべての核に据えるという同じマインドを持っているのですから。
マルメで目にした歯科医療行為を、私たちの臨床で行えない理由は、何一つ見当たりません。あたりまえのことをあたりまえに行う人間性を、講師の先生方と同様、私たちも備えているはずですから。

そう。自分の臨床姿勢は間違っていない。医療人としての資質も備わっている。信念を持って、歯科医療の本質を見据えて、粛々と進めばいいのだ。そういう自己理解をさせていただけたことが、この研修の大きな成果です。

こういった多くの気づきを与えてくださった、控えめでいて暖かく真摯でユーモアセンスのある講師の皆様方に、心からの敬意を表しますとともに、この研修を企画し、運営してくださった熊谷崇先生はじめ日吉歯科診療所のみなさん、大竹さん、岩上さん、関係者の方々に心から感謝申し上げます。 ありがとうございました。この研修に参加できてほんとうに幸せです。

マルメ研修に参加して
2007年9月24日~2007年9月29日
                                                  2007.10.1 井上敬介

人生のポイント
私にとって今回の研修はとても意味のあるポイントとなった。大学の補綴科に10年間在籍した後、父親の診療所に戻り院長となり、大学生活10年間で煮詰まった私の理想の診療システム完成のため半年間全力投球してきました。特にこの6ヶ月間、自院を治療中心から予防中心へと転換し、衛生士の教育を始め予防システムを完成? ただそこには、大きくはばかるさまざまな問題、特に保険診療における限界があったのです。しかしこの研修はそのほとんどを解決したのです。

北欧のすばらしい哲学
スウェーデンに向かう飛行機の中で熊谷先生よりひとつのメッセージをいただきました。
"今回の研修は哲学を学びに行くのだ"まさにその通りでした。アメリカでの研修は新しいものを見て感動し、わくわくし、興奮しました。しかし自分の中に眠る患者への真の利益のための魂は呼び起こされず、"留学したい、勉強したい"そのような気持ちになりました。それに比較して、今回の研修は本当に大切なもの・・・それは言葉では非常に説明しにくいのですが・・・"早く帰ってスタッフのみんなと診療したい、患者に伝えたい"そのような何かを確かに得たように感じます。血脇先生が言っていた"歯科医師になる前に人になれ"に共通するような、まさに哲学の歯科医学でした。研修費が高いのも吹き飛ばし次の機会にはスタッフを全員連れて行きたくなる様な研修であったのです。

不安のない未来
研修の細かな内容もすばらしいことながら、あわせて得た哲学により、今までおこなってきた予防哲学に確信が持て、今回の研修の私の課題であった自費メインテナンス料金と内容の決定が解決されました。それはまさに20年から30年先を行くスウェーデンから学べたものであり、具体的にはキャピテーションシステムから学べたものでした。正確には、それに加え"K.I.S.S."(Keep it simple stupid)の考えが含まれます。それによって、私のしていることへの確信とゆるぎない自信が生まれたのです。この6ヶ月で熊谷先生のおっしゃっているやり方はすべて真似ました。そして今回得た哲学によって確信もしました。と思った瞬間に自分はもう不安のない未来に走り出していました。

考えの同じ仲間と
  患者のためという目標
    気持ちは常に"K.I.S.S."でいれば・・・
      自然と笑顔が沸いてきます。
        熊谷先生、
          私の人生を変える、
            本当にすばらしい研修を企画していただき
              ありがとうございました。

マルメ研修を終えて 2007年9月23日~2007年9月30日               井上貴詞

歯科医師の話でよく耳にすることがあります。
根管治療貼薬剤は何をつかってるの? 水酸化カルシウム?FC?FG?CC?・・・。
マージンの位置は縁上?縁下?・・・。
非常に大切なことです。でも先生ラバーダムはできていますか?形成時歯肉の炎症がなくなっていますか?  

今回の研修の最大の目的。それは「歯科医療哲学」を学ぶことでした。
私たち歯科医師、歯科衛生士は毎日の臨床のなかで、どうしてもテクニックや手技を重視する傾向にあります。もちろん最低限知らなければならないこと、知っていて当然のことです。
しかし一番大切なこと、それが真の患者利益につながることです。
マルメに向かう飛行機の中で、熊谷先生からシステムを忠実に模倣したとしても、決して患者さんの真の利益につながる歯科診療所として機能することはできない。なぜならばシステムを動かすのは「哲学」だからです。このような言葉を頂きその答えを考える研修になりました。  

今回昨年秋に亡くなられたダクラス・ブラッタール先生の強いサポートのもと今回の研修がスタートしました。初日からダンエリクソン先生の「歯科医学の本質」をテーマにマルメ大学講師陣の講習が行われました。ここで我々はまずダンエリクソン先生の人柄をうかがう機会を得ました。
私の卒業した東京歯科大学に「歯科医師である前に人間であれ」という言葉があります。ダンエリクソン先生の講義はこのコース中で数回ありましたが、全ての講義においてユーモアあり、笑いありと初日からぐっと引き込まれました。まさに歯科医師として、人間として彼のすばらしさに感銘をうけました。
講義の中でこのコースのゴールとして、知識の確認をし、新しい知識を加え、スウェーデンでも言えることが日本でもいえることなのかを掲げられました。もちろん講義中の居睡りはダメとご自身が居睡りしているスライドを加えるなどして我々を楽しませてくれました。  

その後はマルメ大学におけるPBL(Problem Based Learning)を学びました。もちろん日本でもこの方法がとりいれられていますがまだまだ問題点が多いようです。
マルメ大学においてもやっと最近になって徐々に学生に受入れられるようになったようではあるが、チューター教育の問題など改善も必要だということでした。  

また歯科衛生士の教育プログラムについての講義ではスウェーデンでは衛生士学校が8校ということを聞き少ないと感じました。衛生士学校でもPBLのシステムが2000年から取り入れられているということでした。現在は2年間のカリキュラムが今後は3年間に延長するなどスウェーデンでも衛生士の役割と責任がかなり高くなっていることを感じました。
特に日本との違いはやはり歯科医師も同じですが、卒後即戦力としてつかえる衛生士を教育しているところでした。PBLの手法によって自分達で問題を考え、仮説をたて、目標をもって行うことを訓練されているところはかなりの能力が要求されるところだと思いました。また臨床に入る前にスキルラボでマネキンを使い1週間に1日トレーニングをつみ後期は1週間に3日と増えるようです。
まだ学生同士でのトレーニングもおこなわれるそうです。また治療費も学生が行うということで本来の半額程度に抑えられているというとこと、またそれを患者さんも承知で望んで来院されるというところは日本にはないシステムでありました。  

講義もCaries risk assessmentに入ってくると参加者全員スウェーデンにおいてどのようにリスク評価をしているのかを食い入るように吸収していました。
ブラッタール先生が開発したカリオグラムを用いての研究からハイリスク、ローリスクの子供たちに2年間にわたって実際のカリエス評価をおこないリスク評価によって実際にカリエス罹患とかかわっている研究が発表されました。
われわれ臨床医がカリエスを予想し早期の診断を行うにあたってカリオグラムは非常に予測しやすく、患者さんにとってわかりやすいシステムであることを再確認できました。また参加者全員で実際に唾液検査を行い後日カリオグラムに入力も行いました。  

1日目の最後にはCaries Progressionと題して診断の3つのレベルを学びました。
第1レベルでは目に見える病変を診断すること、第2レベルではその病変が大きくなってしまうかどうか知ること。第3レベルでは他の病変が現われるかどうか。 またカリエスの診断を氷山にたとえ、80%は海面下にあり実際のリージョンとは認められていないものといわれリスク評価の重要性を説明されました。
また興味のある研究では同じ歯科医師90人がまったく同じX線を1983年、1988年、1993年見せたところこの5年間で24%カリエスがなくなっていた。この5年間において歯科医師の頭の中の変化が起こっていることが伺える内容で非常におもしろい内容でした。
これにはこの時期にフッ素がおおきな効果があるという時期と重なったこともあるが確実に頭のなかでは変化が起きていること、また診断には歯科医師の考えが大きく影響していることも学びました。  

1日目の研修を終え前回のボストン研修と大きく違うことそれはコーヒータイムが多いことです。スウェーデンでは1日に5~6回コーヒータイムを交え食事をするそうです。これはわれわれ日本人が毎日忙しく朝から晩まで働いていることを考えるとゆっくりな時間が流れとても心地よく感じました。  

2日目に入りいつ修復するか?という観点からDEricsonの講義がスタートしました。やはり彼の講義は非常に面白く講義中も笑いが耐えませんでした。
今も昔も患者さんに対して、ブラッシングしなさいという対応は変っていないこと、まだ患者さんもむし歯になると削られると思っている。この考えをわれわれが変えなければカリエス治療の本質は変らないことを学びました。その後は深いカリエスに対する処置としてStep wise excavationを学びました。
この2日目の講義でいままではなんとなく主観的な治療方針だったところが、カリエスに対する自分の中での治療基準が明確になってきました。もちろん日本人において自分の主観的な観点からカリエスの進行が、北欧や欧米人にくらべエナメル質も薄いことからもう少し早く進行するような気がします。
そのためエナメル質カリエスの段階から定期的な観察は必ずしなければならないことや、レントゲン撮影を規格性のある状態で撮影するなど比較がかならずできる環境が必須であることが求められると思います。  

3日目はマルメ大学の外に出て公共の歯科診療所を見学しました。マルメにはこのような公共の歯科診療所が15存在し、その中の1つPublic Dentistry Sodervarnという所にいきました。スウェーデンではこのような診療所が地域医療の重要な役割を行っていました。
ここでは2000人の成人患者、4000人の1歳から20歳までの患者を請け負っていました。また1年間に1000症例の救急患者も受け入れるなど歯科医師5人、衛生士2人、助手8人、受付2人、チェアー台数6台という環境のなかでチーム医療を実践しより充実した医療を提供していました。そのなかでも20歳までは公的に治療費が支払われるところはさすがスウェーデンというところでした。
また成人においてはリスク分けにより4つのカテゴリーにわけられそれぞれにおいて治療費、メンテナンス期間が細かく決められており自分の医院においても一番悩んでいたメンテナンスにおける治療費の設定には大変参考になりました。早速帰ってからスタッフを交え治療費の設定を行いました。もちろんこれが患者の利益につながるために重要なことだとわれわれは感じたからです。  

4日目に入り実際にスウェーデンで働く歯科衛生士の現場の話を聞くことができました。
衛生士は口腔ケアという分野において歯科医師との協力の元に独自に診療を行い医院に貢献しさらには自身も収入を得られる。まさにわれわれオーラルフィジッシャンの歯科医院ではあたりまえになりつつある姿がそこにはありました。
われわれの目指しているものが間違っていないことを改めて感じたのと、実際に日本では卒後歯科衛生士にならない人が少しでも減らせるような環境づくりがわれわれ歯科医師側、経営者には求められるようになってきたと思います。  

5日目には今回の研修のもう一人の主役、Bo Krase先生の講義を受ける機会をいただきました。講義の内容はHistory of Dental Cariesと自身のこれまでの長い道のりをお話いただきました。  

今回のマルメ研修は自分のなかで歯科医療を続けていくにあたってのターニングポイントになりました。カリエスにおいては私の頭の中で変化が起こりました。また真の患者の利益のためにわれわれが何をしなければならないかを考えさせられました。スウェーデンという環境だったからこそこのような考えになれたのだと思います。
物理的に医療を考えるのではなく、科学的に考えなさい。これもマルメで教えられました。研修を終え日本の診療を本日行いましたが、患者さんに対して明らかに自分のなかで変化がありました。これは今回の研修が私に気づきを与えてくれたからです。このような機会を与えてくださった熊谷崇先生、D Ericson先生をはじめとするマルメ大学の講師の先生、またD Bratthallに心から感謝を申しあげます。



マルメ大学研修に参加して                                菅野 宏  

「ひとから聞くのと自分で見るのは大違い!一次情報に接すること!」  
勤務医時代に熊谷先生からよく聞いた言葉の意味を,あらためて痛感した.  

望めば情報はあらゆるところから入手できる.文献や書籍・映像はもちろんのこと,海外講師のナマの話であっても,手を伸ばしさえすれば国内にいながらにして機会に触れることは可能だ.  
出発の数週間前に詳細なスケジュールが届いたので,ざっと目をとおしてみた.自由時間がない... 1週間,朝から夕方までびっちりスケジュールがつまっている.まぁ,勉強に行くのだから当然か.パブリックの診療所の見学は確かにおもしろそう.スウェーデンの医療制度に関しても興味がある.学術的なレクチャーはどうだろう.日本で得られないような情報はあるのだろうか?行けば行ったでもちろんいいことはあるだろうが,かけた時間とコストに対する効果は得られるのか?半ば低いテンションで出発の朝を迎えた.  

空港で懐かしい人たちと次々に顔をあわせると,徐々に気持ちも盛り上がってきた.長時間のフライトを経て初めての国に足をおろしたときには,低いテンションは吹き飛んでいた.ホテルまでのバスでの移動中は,観光客のように周囲の景色を楽しんだ.ただ,夜の顔合わせの食事にはちょっとまいった.ホテルのレストランのディナーがこれか...いろいろな人から食べ物には期待しない方がいいと言われていたが,確かにそうだな,と感じた.  

レクチャーが始まった.初日のお昼にはすでに,エリクソン先生に心をわしづかみにされた気がした.そのあとも次々にさまざまなトピックのレクチャーがあったが,やはり来てよかった,という気持ちがどんどん大きくなっていった.  
熊谷先生が参加者にあてた文章に,「歯科医療哲学」を理解できるようなセミナーにアレンジするという表現があった.勤務医時代に「歯科医療哲学」は厳しい師匠のもとで十分身についたはず,と思っていた.しかし多くの先生方や周囲の人々の優しさ,分野は違ってもすべての講師が今回のテーマである「口腔の健康増進」を地道に,しかし確実に実践してその成果を上げていることを理解するなかで,ほんとうの意味での「歯科医療哲学」の理解には自分はまだまだ遠かったなということに気づいた.  

「歯科医療哲学」というのは単に口の中を云々ということだけでなく,人として患者さんといかに関わるかということ.そして患者さんの豊かな生活をいかにサポートするかということにつながると感じた.
ボー・クラッセ先生の話からは,歯科の歴史の教科書の1ページを刻んだ人の凄みに身震いさえ覚えた.古くからのさまざまな研究の成果はすべて,患者さんの健康へとつながっているのだと感じた.

理解していたはずの「歯科医療哲学」は,遠く北欧の地でさらにその底の深さを強く実感できた.おそらく日本にいては決してここまでの思いは感じることができなかっただろう.仮に同じ講師が日本で同じ話をしたとしても,同じものは得られないと思う.現地の環境の中で,多くの人の温かい配慮によって進められたセミナーだったからこそ感じられたものがあったのだろう.
今回のセミナーでは歯科に対してだけでなく,人としての振る舞いや,さらには豊かな生き方などを大きなオマケとして感じることができた.決して華やかなわけでなく,とび抜けて裕福というわけでもないスウェーデンの人々から,「心の豊かさ」を学ぶことができた気がする.  

熊谷先生,大竹さん,スウェーデンの先生方,サポートしていただいたすべての方に,そしてともに参加し思いを共有できた仲間たちに深く感謝いたします.ありがとうございました.

マルメ研修に参加して                                  小口 道生

一度は行ってみたいと漠然と思っていたスウェーデンに訪れる機会を得た事に、まずは感謝申し上げます。
自分の「診療哲学」を確固たるものにするために参加した研修ツアーでしたが、期待を裏切らない有意義なものになりました。私自身は大学卒業直後から熊谷先生の教育を受けてきました。診療理念やMTMをベースとした診療体制はマルメに於いても大差は無く、自身が引き続き歩んでいく道が間違いないものであると肌で感じる事ができた事が最大の収穫でした。以下、感じた事を列記します。

・ 理念
医療従事者の視点ではなく、患者さんの目線にあった医療をエビデンスに基づいて追求する姿勢が伝わってきた。

・ 教育
PBLのすばらしさは言及するまでもないが、一方的な教育ではなく、よく考え、調べ、証明・確認するというすばらしい教育システムであった。訪れたNursery schoolに於いても創造性を重視した体制が整っており、国家レベルでの教育水準の差を感じた。

・ 教育者(講師陣)
聴講者が飽きずに集中して話を聴けるような配慮をしてくれた。ユーモアであったり、小休憩であったり、常に相手の事を考える姿は患者さんだけでなく我々に対しても一貫していた。全てのレクチャーが素晴らしく内容が容易に頭の中に入った。患者さんにも信頼されるはずである。
唯一の例外は、観光で訪れたTuring Torsoのナビゲーション。一方的なレクチャーが大学講師陣の有能さをより引き立てた。
また講師陣は誰もが信頼できるような医療人としてのふさわしさがあったし、学生もいかにも有能そうな表情をしていた。自分も顔に責任を持てる医療人になりたいと切に願う。

・ 制度
保険、教育、福祉などどれも合理的で日本とはかけ離れすぎている。参考になったが、現状で日本での応用は難しそうである。

・ 人柄
福祉の国と言われるだけあって、親切でホスピタリティーにあふれていた。土産も沢山頂戴した。街では歩行者に対して車は必ず停まるし、大学内外で奉仕という国民性を感じた。医療人にとして見習いたい。

マルメ大学でのAdvancing Dental Healthを終えて               金谷史夫

マルメ大学での研修会が2007年9月24日~9月28日の日程でスウェーデンのマルメにて行われました。僕にとっては初めての海外研修会で、長い間、非常に楽しみにしていました。実際に研修会に参加して、期待以上の貴重なものを得る事ができ、大変有意義な研修会であったと感じています。

研修会はまず、D. Ericson先生の「今回のコースのゴールは健康を増進させるために、1.知識の確認、2.知識の追加、3.新しい観点の獲得、を行う事である」という講義から始まりました。
その後5日間をかけて、「歯科医療のエッセンス、PBL(問題解決型学習)の方法、歯科衛生士教育の方法、リスクアセスメント、唾液検査の方法とその評価、カリエスの進行、いつ治療するべきか、深いカリエスの管理、歯学部の見学、公的医療機関の見学、幼稚園の見学、老人ホームの見学、メインテナンス、歯科衛生士の経済的効果、インプラント周囲炎、カリエスの歴史、スウェーデンでの人頭払い制度」と幅広い分野における講義、見学が行われました。
この研修を通して、D. Ericson先生が一番始めに話したゴールを達成できたと思っています。

この研修会の前に熊谷先生が「スウェーデンでは哲学を学べ!」と話していましたが、まさに、「歯科医療の哲学」、「歯科医療の魂」を学ぶ事ができたと感じています。
歯科医療において根底にあるう蝕と歯周病のリスクアセスメント、そして歯科医師、歯科衛生士のあり方、歯科医療の今後の可能性を知る事ができ、自分の中の「芯」がよりいっそう大きくなる事ができたと感じています。
歯科医療は今後大変難しい局面を迎えると思います。今回学んだ事で、その局面を打破できる可能性を見つける事ができたのではないかとも思います。

また歯科医療の礎を築いたBo Krasse先生の講義を直接聞く事ができ、歯科医療の歴史を実感し、その重さを知る事ができました。僕たちもBo Krasse先生の後の時代を作る世代として、よく考え、データを取り、分析する事で次の世代に少しでも多くの何かを伝える事ができればと思っています。
また、開業1年目の僕はこの貴重な経験を生かし、一人でも多くの患者さんに本当に患者のための医療は何か?を考えながら治療をし続けていきたいと思います。また、スウェーデンで教育方法を今後も良く学び、少しでも優秀なスタッフを一人でも多く育てて、地域に貢献できるようにしていきたいと思っています。

最後になりましたがこの貴重な経験を企画、運営、協力をしていただいた、熊谷先生、大竹さん、岩上さん、西先生に心からの感謝を表したいと思います。どうもありがとうございました。

マルメ研修に参加して                              佐々木英富

医療の哲学とは何か?の真相を探る旅が始まった。
訪問する先々で感じたことだがマルメ大学講師陣はじめすべての人が穏やかで安らいでいる表情から何かを諭してくれるように思えた。

各国が社会政策を学ぼうと注目するスウェーデンは、「社会科学の実験国家」だとも言われている。エリクソン先生もおっしゃっていたが過去に自動車の走行路も左側通行から右側走行に切り替えたように時代状況の変化に対応し、実に簡単に制度、法律が柔軟に変更される。スウェーデンの研究は絶えずこの変化を追いかけ、変更された意図を正確に捉え、目的を達成しているようだ。

しばしば着目されるスウェーデンの経済政策、年金制度、 税金制度、保険制度ではあるが、 高齢者福祉(高齢者特別住宅、)、育児 制度(育児休業制度、保育サービス)も目をみはるものがあった。

そしてその女性の社会進出の場になっているのが公務員の福祉部門である。
女性就労(男女平等政策、高い女性労働率)つまりスウェーデンにとって福祉国家と男女平等はそれ自体が国家と経済を支える重要な柱となっているのでなないかと思われた。
生産労働人口の確保、実はこれこそが国家にとっても国民にとってもこれこそが眠っている優秀な人材を遊ばせておかない最高のコスト意識ではないかと思う。また成熟した政策のもと家庭において共働き率が高い割に出生率が横ばいむしろ微増しているのには驚かされた。国、コミュニティーと各個人との役割分担、責任分担が明確であるが故に核家族であったとしても安心して働けるのではないかと思われた。

今回どの場所でも歯科衛生士が輝いて見えた。彼女たち自身が目的を見据えてしっかりとした教育を受けてきたには違いないが、それを支えている研究機関、大学、社会制度が後押していた。
最近では教育問題も見直されてPBL方式での授業を取り入れる大学ではさらに成果を上げているようではあった。すべてがうまく噛み合って社会全体がよりよく公益性を求めるべく、自他共栄しているように思った。

最後に今回の、このような機会を作っていただいた、熊谷先生、大竹さん、そしてDouglas Bratthall先生に大きな感謝の意を表したいと思います。
ありがとうございました。

マルメ研修                                         仲川隆之

今、すべてのスケジュールが終了しました。カリオロジー、予防の聖地であるスウェーデンでの5日間に及ぶ研修。カリオロジー、ペリオドントロジー、リスク評価、ミニマムインターベンション、Problem Based Learning(PBL)、メインテナンス、歯科衛生士業務、キャピテーションシステム、齲蝕の歴史に関する講義、マルメ大学歯学部、公的歯科医療機関、保育園、高齢者介護施設見学など、他では決して経験のできないとても濃い内容でした。その中で、僕が感じたことを感想として書きたいと思います。

できることなら歯を削りたくない。
これは健全歯の強さ、美しさを知っている歯科医師なら誰しもが思っていることではないでしょうか。歯を削らずに、齲蝕を治癒させる。そのためには、なにより齲蝕について知る必要があります。齲蝕がいかにして発症し、進行し、いかにして予防、もしくは治療できるのか。僕は今回、カリオロジー、歯科医療哲学を学ぶため、スウェーデンにやってきました。

20世紀前半にタービンが、約30年前にエアタービンが開発されて以来、歯科医療は急激に外科としての側面が大きくなりました。実際、エアタービンの誕生により、齲蝕の除去にかかる時間は大きく減少したことでしょう。しかし同時にエアタービンは、多くの健全歯質の切削をもたらしてしまいました。
カリエスが1mm進行するためには、1年以上の期間が必要でしょうが、エアタービンを押し当てれば、ものの1秒で1mm以上の窩洞を形成できてしまいます。また、窩洞の修復材料はセメントにせよ、コンポジットレジンにせよ、生涯不変ではありません。破折や2次カリエスによって、再治療を余儀なくされます。不適切な外科的介入によって、カリエスの進行速度より早く、歯を失ってしまっては、治療と呼ぶことはできないと思います。

齲蝕が齲窩として視認される前に、発症前診断、発症前治療を行い、たとえ齲窩となってしまっても、進行を抑制、停止させ、それでも進行するようならば、適切な時期に、適切な方法で治療し、再発予防の処置を講ずる。これまでの歯科医学は適切な方法での治療にばかり目を向けた結果が、現在の高齢者の口腔内に現れているのではないでしょうか。

しかし、適切な発症前診断、発症前治療、介入時期、介入方法には、自信がなかったのも事実です。それは、日々僕たちが相手している、カリエスというものに関する知識が、まだまだ不完全であることに起因していました。敵を知らずに勝負を挑んでいた訳です。今回の研修を通して、少しずつ敵を知ることができた気がします。明日からまた多くの敵が待ち構えていると思いますが、心強い知識を得て、削らずに治癒させる歯科医師を目指したいと思います。

スウェーデンという国は、国民がとても温かく、みな仲がよく、飛び抜けて豊かな感じはしないものの、将来に不安がないという面においては、日本も学ぶべきところが多い気がします。税金は高いですが、その分、福祉は充実し、健康感も高い。マルメ、いつかまた必ず来ます!!

マルメ大学研修に参加して                                    加藤大明

「歯は削っちゃいけない。健康な歯を壊すのは歯科医師自身です。」
今から6年前、まだ大学5年生で修復治療中心の講義を受けていた私が大変衝撃を受けた熊谷先生の言葉でした。以来、右往左往しながらも「予防」というものを常にベースにおいて歯科医療を考えるようになりました。

「カリエスの進行は歯科医師が思っている程速くない。」
「永久に持つ充填物というのは決して存在しない。」
「歯科医師の労働時間の60?70%は再治療のやり直しに費やしている。」
「いまだ、ほとんどの患者は歯科医師にドリル持つ事を望んでいる。」
「CR充填の除去はアマルガムの除去と比べて、200%多く歯質を削っている。」
「replaceではなく、repairを!」他

今回、マルメ大学カリオロジー科Dan Ericson教授の授業を受けて、6年前に受けた衝撃を思い出すのと同時に、自分が日吉歯科診療所で学んでいることの「源流」を確認できた様な、大変感慨深い気持ちになりました。

私は故Douglass Bratthall先生に残念ながら生前にお会いすることができませんでした。しかし、今回の研修やカリオロジー科の方々との交流を通して、Bratthall先生の考え、お人柄に触れることが出来たような気がしました。
本当に研修に参加してよかったです。

Douglass Bratthall先生を筆頭に、今回の研修の企画、運営に携わってくださったマルメ大学の皆様に深く感謝致します。

マルメ研修感想                                    熊谷昌大

まずこのマルメ研修に参加出来たことに感謝したいと思います。自分は今年の春から日吉歯科診療所に勤務することになり、マルメ研修があるということもわからないまま戻ってきました。自分が日吉歯科に戻ってきた年にこのようなすばらしい研修に参加出来たことを本当に幸せだと思います。

研修を受ける前からプログラム内容を見て、とても勉強になる研修だと思っていました。実際にマルメ大学で研修を受けてみると自分が想像していた以上に充実した内容で、研修日程や講義一つ一つすべてが計算され、研修参加者を飽きさせない様な配慮がしっかりと行き届いたプログラムだったと思います。講義にしても考えさせられる内容ばかりで、このようなプログラムを計画し実行してくれたマルメ大学の先生方に本当に感謝したいと思います。

今回初めてスウェーデンに行きマルメ大学での研修に参加し、日本との違いに驚かされることばかりでした。社会的な考え方の違いはあるものの、実際にスウェーデンに行きマルメ大学での講義、施設への見学を通して、教育のシステムや学生たちの自主性にとても刺激を受けました。自分が経験してきた学生生活と比べると大きな差があることがショックでした。本来あるべき大学のあり方を体験出来たことは自分にとってとても大きかったし、うらやましく感じました。

最初にエリクソン先生が話された言葉『医療は人類の為にある』これこそが医療人、自分自身にとって貫き通して行かなくてはならないものだと感じました。そしてそれがブラッタール先生の魂だと思いました。これまで、自分の中で何の為に医療の世界に入り、何の為に医療を行ってきたのか、今思うと研修を受ける前にはしっかりと答えを出せなかった自分がいることが分かりました。今回のマルメ大学研修に参加し、誰の為に医療というものがあるかということが分かったと思います。この哲学こそこれからの自分の土台として、決して曲げてはならないものだと心から感じました。

最後にカリオロジーの先駆者であるボー・クラッセ先生にお会い出来たことも幸せでした。今年85歳の先生はとてもお元気で毎日のようにセミナーに顔を出していました。そして最終日に、カリオロジーの歴史について短い講義をして下さいました。その時に自分のような若い歯科医療者に何か伝えたいことやアドバイスがあればと質問したところ、とてもありがたい言葉をいただきました。それは常に考えて行動するということでした。論文を読み、考え、常に頭を動かしていることが大切だとアドバイスいただきました。また、歯科の世界だけではなく様々な業種の人たちとの関わりを持ちなさいということも話して下さいました。様々の人と出会うことで広い視野を持ち、その広い視野で歯科医療を考える視点が大切なのだと理解しました.若い自分にとって、とても貴重な時間を過ごすことができたことをとても幸せに感じます。

マルメ研修感想                                     熊谷 直大

今回のコースは、メインテナンスの最前線、といったところだったと思います。
マルメ大学を見学して、スウェーデンの医療に対する思慮の深さを感じました。 補綴や、ペリオのどの論文を読んでも、メインテナンスが行われなければ、口腔内の健康の維持がはかれないことは明白であって、そのメインテナンス履行のためのシステムの構築がスウェーデンでは、大学、政府の力によって上手になされていると思いました。

現在、アメリカで大学院に留学していますが、今回、日本、アメリカに続いて、3つ目の国の医療を学び感じることができたのは、自分にとって大きな糧であったと感じています。
自分たちで学び考える力、そして議論の末に正しい方向性を捉え、推進し、実現していく力、こういった当たり前のことが今の日本の医療、歯科医療の関係者、そして国民ひとりひとりに問われていると思いました。

マルメの9月に  ~2007年マルメ研修に参加して~                熊谷 ふじ子

マルメを訪れたのは今回で3回目になります。最初は1998年9月。まだ病後の体調に不安を抱えていた主人の付き添いをかねて。2度目は、1999年9月。思いもかけずに主人がいただくことになった、「マルメ大学歯学部名誉博士号」の授賞式のためでした。そして今回、ようやく実現したマルメ大学研修セミナーの参加者の一人として3回目のマルメ再訪となりました。そして、3度目も9月でした。

コペンハーゲン空港に到着後、車で海峡の長い橋を渡ると、あっという間に対岸のマルメに到着しました。長い橋を渡りながら、以前訪問した時にフェリーの発着所までブラッタール先生が出迎えて下さったことなど、ふいに頭をよぎり、あれからずいぶんの時間が過ぎてしまったことや、ブラッタール先生のあの笑顔に再び接することができない現実を思って、少々沈んだ気持ちでマルメに入りました。

けれども、ホテルの前に一台のバスが到着し、セミナーの参加者が長旅の疲れもなく元気に降り立つのを迎えているうちに、ここから何か新しいことが再び始まるような、そんな前向きな気持ちにかわってゆきました。なぜならば、みな生き生きとして、何かをつかみ取るためにここまできたというような熱気を強く感じたからにほかなりません。

翌日から始まったセミナーの冒頭、マルメ大学側の責任者であるエリクソン先生が、「ブラッタール先生の魂を引き継ぐ」セミナーであるとはっきりと言葉に出しておっしゃいました。早速始まったセミナーの内容は、どの講義もよく練られてわかりやすく、今日のスウェーデンの歯科医療の考え方を提示しながら、私たちに歯科医療の本質を気づかせるものでした。一日目を終えた頃には、参加者の心はすでにエリクソン先生にしっかり捕まえられていて、その時点でこのセミナーの成功を確信したほどです。

これまで参加したどのようなセミナーに比べても、内容の充実した良いセミナーでした。一人の医療人としてこのセミナーに参加できたことを本当に感謝しています。このセミナーを通して私が実感したことは、まず、「日吉歯科診療所」の歯科医療の取り組みの理念や方向性、そして臨床における細かな診断や治療方法の選択についても、ほとんど変わらないレベルであることが再確認できたことです。

PBLと呼ばれている大学の教育システムは、診療所における新人教育やスタッフ教育にも応用できそうに思いました。しかし何より興味深かったのは、講義や施設の見学、また食事や買い物で街に出かけたりするたびに感じる、スウェーデンという国の社会システムや人々の考え方でした。
長い歴史の中で、スウェーデンの人々は、高い税負担と引き換えに、生涯安心して暮らせる社会を選択した国民だということです。そして、皆が支払った税金は無駄遣いすることなく、常にデータで見直しながら修正を繰り返す。コストと健康を考えれば、歯科医療の場合若年者の健康管理に多くの投資をして、健康な子供たちを量産するという国の姿勢がはっきりとしていることです。そうした意味では、スウェーデンの人々は、極めて民度の高い国民であると感じました。

そのような社会システムの中で発展してきた歯科大学教育や歯科医療制度を日本のそれと単純に比較をする訳にはいきませんし、性急に導入しようとしても無理なことは明白です。
しかし私たちにも今すぐできること、それは、あれだけきちんと整理された歯科医療哲学と治療の考え方を私たち一人一人の臨床に地道に生かしてゆくことではないでしょうか。そのことが、結果的に日本の歯科医療のあり方を変えてゆく力になってゆくように思います。
今回のセミナーの感激を感激だけに終わらすことのないように、参加したものの使命として、自分の臨床にしっかり反映させたいと強く思いました。日本においても、スウェーデンに負けない臨床を展開することができるという自負を持って、取り組みたいと思います。

見るものすべてが刺激的だった初めてのマルメ、スウェーデンという国の懐の深さを感じた2度目、そして、3度目の今回は、スウェーデンの社会システムをじっくり見ながら、日本で私たちが果たす役割を考えるよいきっかけをいただいたと思います。
マルメの9月における3度の経験は、私にとってさまざまな意味で忘れられないものとなりました。ブラッタール先生はもういらっしゃいませんが、私にとってマルメは、ある意味で心のふるさとのような場所として記憶されることでしょう。多くの皆様のご協力、本当に有難うございました。

マルメ研修を終えて                                       仲川 なぎさ
 
今回のマルメ研修に参加するにあたり、このマルメ研修が自分の歯科人生の中で重要な意味をなすものになるだろう、という期待が、研修プログラムを見たとき、そして熊谷先生のマルメ研修に対する思いを聞くにつれ、高まっていきました。
私の姿勢としては、これだけの環境と講師陣がいらっしゃるので、その雰囲気を精一杯肌で感じ、またその言葉を聞き漏らすことのないようにと注意しながら参加しました。

5日間の研修を終えて、最終日にD Ericson先生は今回の研修のゴールについて話されました。それは、今までの知識を確認すること、新たな知識を得ること、そして新たな視点を持つことです。それらのことを中心に今回の研修を振り返ってみたいと思います。

まず、今までの知識を確認することです。今まで学んできたカリエスの成り立ちや、歯周病のリスクについて再度確認することができました。しかし、異なったことは、すべてがEBMにのっとった情報であるということでした。まだ、研究データが出ていないものに対しては、わからない情報ということで、曖昧な答えは一切しませんでした。データによる結果だけが説得力を持つのだということが徹底していました。
う蝕の介入時期についても、とても難しい問題ですが、年齢やカリエスリスク、歯種によって総合的に判断しなくてはならないのだと思いました。その中でも、臨床データを示すものもあり、やはり説得力を持つものでした。

次に、新たな知識を得ることです。これについては、スウェーデンの社会システム全てが、真新しいものでした。若い人は働き税金を払うことで、高齢者の社会福祉が充実し、将来の自分たちにも返ってくるという環境の元では、貧富の差はほとんどなく、全ての人が安定した老後を過ごせるのだと思いました。

最後に、新たな視点を持つことです。出来高払いの日本のシステムの中で、capitation systemは口腔環境を守る上で社会全体が求めている制度ではないかと思いました。
その中で、印象的だったのはEwa Ericson先生の本当に予防を重要視していますか、リスク評価を信用していますか、という問いかけでした。
まずは、私たちが心の底から、患者さんの長期にわたる口腔衛生状態の維持を望んでいなければ、なにも始まらないのです。今後、患者さんのために何が必要か考える前に、私たちの覚悟を問われた気がしました。
スウェーデンでもう蝕の多かった時代からの変革は容易ではなかったと思います。日本においても私たちのするべきことは多いけれど、誰のための医療であるかをもう一度再確認できる研修でした。

最後に、このような研修の機会を与えたくださった熊谷先生、マルメ大学の講師陣の方々、研修の運営に関係された皆さんに感謝申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

マルメ大学研修に参加して                             平成19年9月30日 久保郁子

スウェーデンのマルメ研修の参加が決まってから、5日間の研修目的について考えました。 今回の研修で「カリオロジー」とは何かを知りたい、そして歯科医療の本質について理解しようとマルメ大学で講義を受講しました。

今回の研修はProfessor Dan Ericsonと5人のProfessorとDr.により5日間のセミナーとデンタルヘルスセンター・保育所・老人ホームの見学が準備されていました。
Bo Krasse教授にお会いできて講義を聴く事ができたのは光栄でした。歯科医学の歴史をひもといて、う蝕は感染性で伝染性の疾患であることをハムスターの実験で証明したことで歯科医学に重大な転機を導き、現在の「カリオロジー」の基礎を築かれたのです。
Bo Krasse教授は「これからの歯科医師は歯科以外の人々と良く話し合い、良く読んでそして良く考えることが重要である。」と言われました。これは現在マルメ大学で行われているPBL(問題解決型学習)そのものです。マルメ大学では、教育(PBL)システム・研究・一般医・専門医・地域の啓発・WHOとの共同研究がなされています。

患者に歯科疾患の原因を伝えて、口腔健康状態を維持できるように説明をして、バクテリアと宿主の間のバランスを保つようにメインテナンスを続けていくシステムを確立させることはまさにオーラルフィジシャンコースで熊谷先生が説明されてこられた内容でした。

なぜマルメ大学が歯科教育で1番と評価されたのでしょうか?なぜなら、マルメ大学では常にデータをとり分析して評価して改善する、PDCAサイクルを回していたからです。 Prof.Ericsonらは いつも「Why? What? and How?」と問いかけて目標を掲げてチームで討論してPBLの教育システムをつくりました。この教育を受けた学生はアンケートでは、殆どが満足しています。

歯科衛生士学校では歯科疾患の治療・歯科疾患の予防・口腔健康の増進に加えて、全身健康の増進が3年間の教育システムに追加されました。多角的チームとして地域で活動できるようなすばらしい歯科衛生士が育っています。マルメ大学では、歯科医師と歯科衛生士は学生の時から、チームとして実践的予防プログラムに取り入れられています。

「歯を予防することにお金をかけますか? 歯を削ることにお金をかけますか?」
と問われたときに患者はどう答えるでしょうか。もちろん答えは1つです。これを実際に実践しようと考えたときに私達はいったい何をすれば良いのでしょうか。カリエスリスクを評価して分類してキャピテーションシステムの流れにそってメインテナンスを行っていかなくてはいけません。その中で1番大切な事は、私達のハートが地域の人々に口腔健康を維持増進していくために「予防」を広めようとする熱意を持っているかどうか、 またリスクアセスメントを心から信じているかどうかです。
これらのことを歯科医療従事者は、地域社会の人のために、全ての歯科医療全体に広めていかなくてはいけません。

健康な口腔環境を維持することに専念し、
歯科医療のコストを前もって患者に知らせること、
リスクグループ分けをしてどこに分類されるか説明をすること、
これらの事が自分の診療所でできますか?と問いかけたところ、
残念ながら、私はまだ十分ではありませんと答えなくてはいけません。

私は、この問題を解決できるように明日からの診療を変えていかなくてはいけません。
今回のマルメ研修では歯科医療の本質を問いかけられて、しっかりと考えさせられました。オーラルフィジシャンコースを受講したのちに、ISO9001を取得して、新しい医院に移転しました。
しかし、私1人の努力ではこのような課題はとうてい達せられません。私達の予防に対するハートと強い熱意をもち、リスクアセスメントを信じて、チームで考え解決してくようなシステムを構築していくことが問題解決の糸口になると教えられました。
今回の研修では、優秀なProf.とDrの講義をうけたので、誌面に書き尽くせないほどたくさんの知識を得る事ができました。今後の診療にぜひ取り入れていきたいと思います。

最後にマルメ研修に参加させていただいた熊谷先生や日吉歯科診療所のスタッフの方々と研修に参加された先生方に大変お世話になり、心から御礼を申し上げます。

マルメ大学研修ツアーに参加して                           福田健二

今回、昨年開催のオーラルフィジシャンボストン大学研修ツアーに引き続き、マルメ大学研修ツアーに参加させて頂きました。
これまでに、昨年亡くなられたダグラス・ブラッタール先生には、講演会で何度かお会いしましたが、あのユーモア溢れる穏やかなお人柄と、非常に解りやすく丁寧に語られるご講演には、いつも感銘を受けておりました。      

今回このようにマルメ大学を訪れ、カリオロジィー教室を受け継がれたDan Ericson教授をはじめ、このセミナーを準備してくださった講師陣の先生方の講演は、ダグラス・ブラッタール先生のそれを受け継ぎとても丁寧で理解しやすく、ホスピタリティーを感じる内容でした。また、セミナーの中でも紹介がありましたが、大学の学生教育プログラムに関してもPBL(問題解決型学習法)を取り入れG・B Black先生がおっしゃっておられたCaries as A Whole.(カリエスを全体として総合的に診なさい。)を実践するに必要な教育法を取り入れ、スウェーデンの大学で最も優れた教育機関として第三者機関から評価を受けるなど、本当に素晴らしい大学でのセミナーを受けることができました。

また、本当になかなか聴くことのできないBo Krasse先生ご本人による「歯牙う蝕の歴史」の講演、更には、スウェーデンにおけるデンタルヘルスに関する社会制度やその現場での活動についても見学の機会を作って頂き、あらゆる角度から予防歯科の考え方、あり方を聴講させて頂き、そこに脈々と流れる「歯科医療哲学」を教えて頂きました。

今回、このようなセミナーに参加させて頂き、貴重な体験をさせて頂いたことに大変感謝するとともに本セミナーを企画された熊谷先生はじめ、マルメ大学の先生方、いろいろとお世話頂いた大竹氏、そして日吉歯科医院の皆様に心からお礼申し上げます。 

マルメ大学研修に参加して                              大楽 貴彦

ボストン大学研修に引き続き、今回の研修も参加させていただきました。歯科治療学に関して海外の大学で学ぶ機会はありましたが、予防歯科医療に関して海外の大学で学ぶのは初めてのことでした。今回ぼくにとって、世界の予防歯科医療をリードしている大学で学べたことは、大変有意義なことでした。

初日は、D.Ericson先生から、このコースの研修内容に関して説明があり、その後、マルメ大学歯科衛生士学校の教育システムに関して学びました。PBLを柱に、自ら考え行動できるプロ意識をもった即戦力を育てていく教育手法に感心しました。自分のofficeのスタッフ教育の参考にしようと思いました。
次にリスク評価:データの収集演習を行いました。D.Brattal先生が開発されたカリオグラムを、マルメ大学の先生から直接指導を受けました。
最後に「カリエス進行」についてP.Carlsson、D.Ericson先生から講義を受けました。先生から[Cariesの診断の奥深さ、目に見えるLeasionより実際にLeasionとして見られないリスク診断の重要性]を改めて学びました。Cariesを物理的に治療するのではなく、より科学的に診断し、治療を行っていかなければならない重要性を再確認いたしました。また、Cariesの初期介入の時期についての説明があり、D.Ericson先生の22年間の研究成果の説明を聞き、Cariesの初期介入はできるだけ慎重にしなければならないということを再認識させられただけでなく、初期介入の時期に関してより深く理解できました。

2日目、D.Ericson先生より「いつ修復するのか?歯科医学におけるMI」という題で講義を受けました。
安易な考えで修復を行うことで、患歯ばかりでなく多くのケースで隣在歯に傷をつけ隣在歯の寿命を短くしているという歯科の現実を学びました。
また、さまざまなリスクファクターを考え、そのリスクを排除し経過を観察をし、う蝕が象牙質に到達してから初期介入を行うべきであることを示されました。修復治療後の2次Caries処置は、ReplaceするよりRepairの方が歯の寿命を長くすることができることが理解できました。
次に、A Lager 先生より「深いCaries に対する処置」という題で講義を受けました。細菌感染した象牙質を、ろ髄させず歯髄保存し、それによって歯の寿命を長くしていく方法を、症例を見せていただきながら、再確認できました。
その後、G Brattall、D Ericson 先生より「薬剤と疾患パターン」に関して講義を受けました。高齢者になるとさまざまな全身疾患により薬剤投与が多くなり、口腔乾燥症を誘発するため、Cariesが発症、進行してしまう。この対策として、k.i.s.s. の観点から0.2%NaFのrinsingが有効であることを教えていただきました。最後にTour on dental schoolがあり、歯科大生、歯科衛生士学校の学生に直接お話を聞く機会をもつことができました。PBLの教育システムにとても満足しているという生の声を聞き、そのシステムの素晴らしさを実感しました。同じ年齢の頃の自分と比較するとはるかにプロ意識をもっていると感じました。

3日目は、保育園、デンタルヘルスセンター、老人ホームの訪問研修でした。
保育園では、安心して子供を見てくれるシステムが整備されているために、共働きが普通になっているスウェーデンの国の状況を理解できました。また、希望者には、一日中外での保育がうけられることには、非常に驚きました。デンタルヘルスセンター訪問では、Caries risk に応じて患者さんを4つのカテゴリーに分類し、それに応じて医療収入、メンテナンスの間隔が変わっていることが理解できました。
老人ホーム訪問では、素晴らしい環境で余生を過ごせる福祉国家スウェーデンを理解することができました。

4日目は、「メンテナンスとは何か?」という講義を G.Brattall先生からお話をいただきました。
スウェーデンでは、定期的なバイオフィルムの破壊と除去を行いながら、薬剤を積極的に使用し歯の寿命を伸ばしていることがわかりました。
次にK.Wretlind先生から「歯科衛生士のための日常業務と経済という題で講義がありました。スウェーデンの歯科衛生士は患者と話し合い、治療計画を立てて、う蝕や歯周病を予防していく、いわば、Mini Dentist となって活躍している姿と、さらに、歯科衛生士のみでofficeがもてることに驚きました。
給与に関しても日本と比べはるかに高い収入であることが理解できました。午後からはカリオグラムへ自分のデータの入力と、D.Bratthal 先生がご苦労されて開発された500万の数式が入力されているソフトの説明を受けました。講師の先生からご指導を受け、改めてそのソフトの素晴らしさを痛感しました。
講師の先生から、「カリエスリスクを計算することは難しい。齲窩を切削する方が楽である。」という先生の言葉が印象的でした。あらゆる方向からCaries risk を総合的に診断し治療の必要性を考えるというD.Bratthal 先生の教えを理解できました。

最終日は、G.Brattall 先生より「歯周インプラント」の講義がありました。スウェーデンにおいてもここ数年Peri-implantitis が多くみられるようになり社会問題となってきているという現状を知りました。また、D.Ericson 先生からCariesのまとめをしていただきました。
Cariesリスクを排除し口腔内環境が改善に向かってきていることを、口腔内写真ばかりでなく、カリオグラムを使用し視覚的に患者さんに理解していただき、治療への勇気や希望を与えていけることを学びました。また、Cariesは総合的に診ていかなければならないことも、再確認いたしました。
次に、Bo Krasse 先生から「歯牙う蝕の歴史」という講義を受けました。先生からは、[将来Cariesは撲滅することはないが、発生率を減少させることは、可能となるだろう。しかし、発生の減少は、偶然には得られない。うまく知識を応用することで、その成果が得られることになるだろう。]という言葉をいただきました。たいへん重みのある印象に残る言葉でした。
最後に、Ewa Ericson先生から「人頭払い方式と、健康への奨励策」という題でお話がありました。スウェーデンでは、Drill.Fill では歯の寿命は短くなってしまうという国の統計を得て、患者さん、歯科医師、社会にとってためになるCapitation model を導入した国家の行動力に感動しました。日本の歯科医療の目指すべき姿を垣間見ることができました。

この研修を通して、自分のoffice に来院してくれる患者さんの口腔の健康を生涯にわたって守っていくためには、何をしたらよいのか。また、地域の人々の口腔の健康を守っていくためには、今後どうしたらよいのかを改めて考える機会となりました。それと同時に、これまでなかった新しい視点を得ることができた研修でした。
治療に際しては、これまで以上に慎重に、そして総合的に診断をしてひとつひとつの歯を大切に治療を行わなければならないことも理解できました。この研修で、歯科医療哲学とは、どのようなものなのかを肌で直接感じることができました。歯科医師としてこれからの自分を考えることのできた機会にもなりました。今後の自分の歯科医療を根底から変える研修となったと思います。

修復治療がどうして患者さんの「究極の利益」につながらないのかを改めて考えそして感じることができました。この研修を企画していただいた熊谷 崇先生、コーディネーターであるオーラルケア社長大
竹氏、そしてスウェーデンにおいて歯科医療教育機関としてTopに評価された世界をリードするマルメ大学の素晴らしい講師の先生方、みなさまに対して深く感謝いたします。

スウェーデン・マルメ大学研修を終えて                         永森 司

Tack(ありがとう)!本当に素晴らしい研修旅行に感謝したい。
熊谷先生はもちろんのこと、亡くなられたブラッタール教授はじめマルメ大学のスタッフ皆さんにはありがとうの気持ちでいっぱいである。

今回の研修は、昨年のボストン研修と切り離しては考えられない。ボストンで熊谷先生が言われた「私は、治療はアメリカで学び、予防は北欧で学んだ」との言葉が頭に焼きついているからである。
期待どおり、カリオロジー、ペリオドントロジーなどの講義を受けるだけに留まらず社会環境まで知ることができた充実の5日間だった。スウェーデンの予防を中心とした「歯科医療哲学」の神髄に触れることができたと思う。

まず、カリオロジー講座のダン・エリクソン教授の授業。う窩のない虫歯を患者にどう分からせるか?修復にお金を出すより、健康を維持することに患者がお金を出すような意識改革。カリオロジーとは技術、知識ではなく歯を守るための考え方の学問だと知った。
ブラッタールの遺志を引き継いだエリクソンはMr.カリオロジーであるがユーモアの達人でもある。絶妙の笑いと休憩のタイミングで講義を飽きさせない(時差ぼけにも関わらず眠くならなかったのはホテルの塩っぱい!みそ汁のせいではない)。

次に、歯科衛生士教育プログラムでのPBL(問題解決型学習)の取り組み。グループ学習で自分たち主導で学んでいくシステムは、とても参考になった。歯学部でも取り入れられているPBLは人間を成長させるのか、学内見学の際の彼らは知的かつ気さくでとても輝いて見えた(美人も多い)。

中日は丸一日、学外の社会見学。
デンタルヘルスセンター(公営の診療所)ではスウェーデンの一般的な歯科医院の形を見ることができた。子どもたちを自然の中で一日中遊ばせるデイケアセンター(保育園)は驚き!さらには高齢者ホームまで訪れることができ、まさに「ゆりかごから墓場まで」を実感できた。
そして、歩き回ってくたくたの一日でもあった。

その他、サリバテストの実習もあり、カリオグラムにより自らのリスクも再認識した(覗き見た熊谷先生の結果は、虫歯にならない確率100%!さすが!)

圧巻は、Bo Krasse(あえてアルファベット表記)先生の登場(生きてたんだ!)。 あの、メディカルトリートメントモデルの!歯牙う蝕の歴史の講義ありがとうございました(歴史上の人物に会った感じ)。

メインテナンスの講義、Capitationシステム(人頭払い方式)や衛生士業務の話など、自費メインテナンス移行に取りかかった当院(丸の内歯科医院)にとっていろんな示唆に富む内容だった。すべての研修プログラムに満足。

本当に撮った写真をスライドにして眺めるのが楽しみである。ほとんど観光はなかったが素晴らしい旅であった。最後に、一緒に行ったオーラルフィジシャンの仲間たち、楽しかった、ありがとう!

スウェーデン研修を終えて 感想文(2007/09/30)                    加藤久尚

● 興奮
熊谷 崇先生がおっしゃっていた「私は治療はアメリカで学び、予防は北欧で学んだ」という予防の聖地スウェーデンにやっとたどり着く事ができたのかとエキサイティングな気持ちになりました。遣隋使や遣唐使の時代には命がけで学びにきたことを思うと異国の文化、研究や習慣を学ぶには随分と楽な時代になったのだろうと思いました。今回の研修は昨年秋に亡くなられたダグラス・ブラッタール先生の強いサポートにより(熊谷家とブラッタール家の家族ぐるみのお付き合いと絆により)マルメ大学へ受け入れていただいたことへの感謝とともに 日本へ帰ってから真の患者利益となるように自分の臨床を考えるターニングポイントとなる機会となり身の引き締まる思いがしました。また国や地域をよい意味で私達が変えなければならない役割があるのではないかと使命を感じました。百聞は一見にしかず。実際に肌で感じることが大変楽しみになりました。

 




● 研修の意義
今回の研修はボストン大学研修と同様に大変有意義な研修であったと思います。これだけの内容になるのに2年前から構想を練り、随分と時間をかけてダン・エリクソン先生と熊谷先生は打ち合わせをして下さったのだと感心しました。練りに練って作り上げた研修の機会をお酒の飲みすぎなどで無駄にすることがないようにと、熊谷先生からマルメ到着早々戒めの言葉をいただきました。このようなすばらしい研修の機会を与えてくださった熊谷先生に直接 恩返しができるはずもなく、後輩の歯科医師の導きや日本や地域の方のために労を惜しむなと活を入れられた気がしました。

日本の教育システムでは卒業後 即戦力になれるものではなく、1人前の歯科医師になるにはあまりにも時間がかかるだけではなく、志が低い歯科医師とたむろするようになると手に負えなくなります。いつか日本にも海外の歯科医師が学びに来るような時代になるように何かを変えることができないのだろうかと感じました。

エビデンスに基づいた治療を実践するために、私達開業医がデータをとり続ける必要性も感じました。

スウェーデン研修では歯科医療哲学を教え込まれた気がしました。スウェーデンの歯科医は日本の感覚でいう内科医のような気がしました。その上講義の端々に冴え渡るジョークがあり、今までの自分のプレゼンの貧弱さを猛省させられました。

● 研修に参加して感じた今後への責任
自分の臨床を再度見直し、オーラルフィジィシャンとしてどのように社会や地域に貢献するかを模索しはじめました。

院内でチーム医療をどのようにつくっていくのかを再検討し始めます。

患者利益となる診療体制を日本の歯科事情のなかでどのように構築していくか
国民性、歴史、保険制度、エビデンス、歯学教育、行政など日本の実情に照らし合わせてみる必要があると思います。医院単位で変えられることして、私の医院を世界の水準を超える、いや世界最高水準に達しなければならないと感じました。ISO取得というのも1つのツールとして早速取り組みたいと思います。

※ 社会制度そのものを変えなければ変わらないことを整理し、その大切さを私達は伝える責任があると感じました。日本の歯科医療が世界標準になるようにこれからは努力いたします。

● 研修を自分の臨床へどのように反映するか
オーラルフィジィシャンとして知識と技術の整理をしていきたいと思います。

チーム医療をすすめていくには共通の哲学を共有する必要があります。オーラルフィジィシャンは何を分担し、日本にはいないが専門医に何を任せるかを整理する必要があると思います。

私自身 いつも課題になるのですが、言語学習も日本に帰ったら早速取り組みます。

● 要望
第2段としてスウェーデンの修復、補綴、口腔外科などの講義を聴講してみたいです。

● 研修開催への感謝
熊谷先生をはじめ、亡きブラッタール先生、それを引きついで下さったマルメ大学の先生、この研修をコーディネートしてくださったオーラルケアの大竹社長、通訳をして下さった西先生と岩上さん、快くこの研修に参加を勧めてくれた家族、院長が不在時にも診療室を守ってくれているスタッフに感謝致します。

講師陣の人柄、心配り、すばらしい能力、ユーモアセンスを肌で感じながら、自己成長してまたこの地へ来ることができればと期待します。またぜひ次回研修に参加させてください。

志の高い歯科医師と触れることにより、時々休みたい楽をしたいとめげそうになる自分に刺激となり、また学び続けていこうと決意しました。

診療においても人生においてもこの研修がターニグポイントとなり、院内のチーム医療のレベルが少しでも成長して再度皆様に研修会などでお会いしたいと思います。
本当にありがとうございました。

マルメ研修を終えて                                  江間誠二

研修の前に熊谷先生より歯科医療に対する哲学を学んで来るようにという指示がありました。
マルメに着いてみるとヨーロッパの古い落ち着いた、また整然とした町並みが歴史の重さを示唆しているようでした。

カリオロジー、PBL,ペリオトンドロジー、キャピティエイションの世界先端の考え方を教えていただき感激することばかりでした。事象を正確にとらえ、世界中のそれに関する文献を集め、討論し、評価し、実行し、結果を論文にまとめるという作業が実に丁寧に、深く行われているのに感心しました。

スウェーデンの国民性か、今回の講師陣だけが持っているものか解らないが本来人間が持っている生き続けるための生理現象をとても大切にし、健康に生きるためのホメオタージスを強化することに力を入れていることが理解できました。

PBLを用いた教育法では、学生たちが積極的で生き生きとしていて、「これ以外の勉強法は考えられない」と言っていたのが印象的でした。この教育法を自院でも取り入れて、スタッフの
モチベーションを上げていきたいと思いました。

カリオロジー、ペリオドントロジーについても過去から、現在まで実際に運用されている様子を公立病院で見学ができ、奥が深いと同時に歴史を感じました。

また、保育園、健康な人の老人ホーム、健康でない人の老人ホームを見学し、生まれてから死ぬまで(ゆりかごから墓場まで)きめ細かく面倒を看ている様子に、国家のあるべき姿を感じました。

キャピティエイションシステムは、今後の医療費削減の最良の方法だと思いました。このシステムを早く日本にも取り入れるようにするためには、オーラルフィジシャン一人一人がMTMを確実に行い、メインテナンスの重要性を訴えていく以外にはないと思いました。 患者様への教育を自院でもさっそく始めます。そしてこの感動を忘れないうちにスッタフヘ伝えたいと思います。

すばらしい研修を企画してくださました熊谷先生、エリクソン先生、マルメ大学のスタッフの皆様、日吉歯科のスタッフの皆様に御礼を申し上げます。

2007年マルメ大学研修セミナーをおえて                    佐藤克典

9月24日から9月28日にかけてスウェーデンのマルメ大学においてオーラルフィジシャンアドバンスセミナーがおこなわれました。前回のボストン大学のセミナー参加者を中心に構成された総勢40名を越える参加者によるセミナーでした。

9月23日に成田を11:40に出発し現地時間で16:05にコペンハーゲンに到着しました。所要時間11時間25分の空の旅となりましたが前回のボストンにくらべると乗り継ぎなどがなく思ったよりも快適に時間が過ぎていきました。
時差が7時間ということであまり時差に悩まされることもなくホテルにつきました。宿泊するヒルトンマルメホテルでは数日前よりドイツ視察をおえた熊谷 崇先生とふじ子先生、オーラルケアの大竹さんが出迎えてくれました。
夕食会ではセミナーをプログラムしていただいたProfessor D Ericson先生のご紹介やマルメ大学研修の世話役として現地の衛生士であるLina Gassnerさんの紹介がありました。

9月24日はまずD Ericson先生により"今回のセミナーの目的と歯科医学の本質"が講義されました。
セミナーの目的としてはいままでの知識の再確認とあたらしく正しい知識の追加が提示され、日本では窩洞形成で有名なG.V.Black先生ですが "自分たちがおこなっている再治療を中心とした保存、補綴処置ではカリエスを防ぐことはできないこと"、また"カリエスの病因論と病理学を理解しなければその破壊的な行為に対抗することが出来ないこと" というG.V.Black先生のカリエスに対する考えを例にとり日本でのG.V.Black先生に対する認識とマルメ大学でのG.V.Black先生についての認識の違いを説明されました。
また歯科医学の本質を見直すということでは患者すべては歯科医に対して歯を削ってつめることを期待しているがこれからの展望としては口腔の健康を維持し、最小限の介入による治療で歯科医としての生計も維持され、口腔内の健康な状態を維持することを歯科医学としてより重要視すべきであると説明されました。
つづいて"マルメ大学の衛生士教育でのPBL(Problem Based Learning)"や"サリバテストの解説と実習"、そして"カリオグラムの有意性について"の講義がありました。サリバテストの手順ではいままで自分の医院でおこなってきた手順とマルメ大学での実際の差に気づくすばらしい内容でした。
また"カリエスの進行について"の講義では隣接面カリエスに対する考え方で歯科医が思うほどエナメル質に限局されたカリエスの進行は早くないというデータ、そして実際にレントゲンでカリエスの進行が確認された割合が提示され、隣接面カリエスに対する治療は出来る限り遅いほうがよく治療する時期は自覚症状、審美障害、機能障害、象牙質にまでカリエスが進行した場合であると解説されました。
また治療に介入する基準も歯科医の概念をキャリブレートし統一する必要のあることを説明されました。いままで曖昧であったことや知識の整理ができた一日でした。

9月25日はまずD Ericson先生により"いつ修復介入にはいるべきか"の講義が行われました。私たちが修復処置に入る際に隣在歯を切削してしまう危険性は64~69%あり、切削された歯は3倍カリエスになること、これらのことからもし切削する際はまず隣在歯を守るということがあげられました。2次カリエスを修復する場合は再製や完全に除去するよりはrepair(補修)のほうが歯へのダメージも時間的なコストも有利であるのでできるだけrepair(補修)を心がけるということでした。しかし修復物の耐用年数とカリエスがエナメル質から象牙質に進行するのに要する年数を考慮するとできるだけ修復を遅らせることが歯をすくうことにつながるという結論でした。
つづいてA Lager先生が"深いカリエスに対する処置(step-wise excavation)"について講義され象牙質に進んだカリエスが歯髄に及ぼす影響そしてそれに対するstep-wise excavationの手順が説明されここでも歯に対するダメージをいかに少ない方法を選択するかということが重要視されていました。
またstep-wise excavationの優位性を評価する試みとしてThe CAP-1という研究がされていて現在試験中とのことでした。休憩のあとG.Bratthall先生とD Ericson先生による"薬剤と疾患のパターン"が講義されました。現在全身疾患の治療につかわれている薬剤により歯肉の肥厚や唾液量の減少、プラークの組成に影響をあたえるもの、歯肉や顎骨に影響するものなど口腔内に副作用をひきおこす可能性のあるものは少なくなくそれに対する知識を歯科医は持ち、内科医と連携をとり患者の健康をともに守っていくという姿勢が必要性であると説明されました。
そのなかで日本と違いを感じたのは、高血圧の患者で薬の副作用により歯肉の肥厚増殖を起こした患者の治療はその病院の歯科と連携し、歯肉切除等の歯周病にかかる治療費用を安くし包括的に患者の治療をするシステムがあるということでした。またスウェーデンでも高齢化の問題があり、口腔乾燥症や痴呆症、酸を含んだ薬による酸蝕症、ニトログリセリンやぜんそく用の気管拡張薬など糖分を含んだ薬などによるカリエスの発生の問題が説明され、治療に関してはK.i.s.s.(Keep It Simple )が望まれ0.2%NaFによる洗口が推奨されるとのことでした。

9月26日は前日までの講義から外へ出てDental health centreなど施設の見学にいきました。Nursery schoolからHome for healthy elderlyやHome for non‐healthy elderlyまでまさに"ゆりかごから老後まで"のスェーデンの社会福祉の体制を見学できました。
Nursery schoolでは一日の生活を園外の公園でくらす園児のクラスもあり、過保護になりつつある日本との違いを感じました。昼食時には伊藤 智恵先生に自分の日本でイメージする福祉とスェーデンで行われている福祉の違いを指摘していただき福利厚生と福祉の違いが確認でき勉強になりました。この日の最後はD Ericson先生のご好意で、マルメのあたらしい観光スポットであるトルネイドタワー"HSB TURING TORSO"の見学をさせていただきました。

9月27日は午前中はG Bratthall先生とK.Stagner先生による歯周病のメインテナンス、K.Wretlind先生による毎日の衛生士業務と経営(患者の料金や衛生士の給与)について講義がおこなわれました。
スウェーデンでのメインテナンスの方法や診療の流れ、衛生士業務や待遇など日本との比較ができこれからの衛生士の働く環境を考えるひとつの目安となりました。
午後はG Hansel‐Petersson先生とともに月曜日に各自で採取した唾液の検査結果を判定し、カリオグラムにデータを入力し分析しました。カリオグラムの操作を実際に行うことでより理解が深まり、またその利用で重要なのは"専門家の診断が重要でありカリオグラムの結果がそれに置き換わるものではない"という説明が印象的でした。最後にG Bratthall先生による"歯周病のリスクファクター"について講義がなされ、喫煙、糖尿病、遺伝的要因、冠状動脈性心臓病(CHD)またそれぞれのリスクの関連性が講義されました。

9月28日はG Bratthall先生によるインプラント周囲炎についての講義でした。インプラントが普及するにつれ、インプラント周囲の粘膜炎や骨の喪失を伴うインプラント周囲炎も多く発症してきました。インプラントも植立することが目的ではなく、予後の機能の経過が重要であるため、そのためには口腔衛生処置は常に行われるべきものであり、持続性のある歯周病の症状がのこる患者やリスクがある場合にはインプラント処置はするべきではないということでした。

つづいてBo Krasse先生による"歯牙う蝕の歴史について"が講義されました。まさに近代歯科の流れのなかを生きてきたBo Krasse先生による講義は重みがありました。
1960年代FitgeraldとKeyesによってカリエスは感染性で伝染性の疾患であるということが解明されました。そしてカリオロジーが確立され現代の治療へと発展してきたこと、カリエスの減少は偶然ではなくうまく知識を応用することで起こったのであると講義されました。そして最後にBo Krasse先生からこれからの歯科医療者たちへの言葉として"文献等読んで、よく考え、対話する、そしてメモし忘れない様にする。歯科以外の人たちとも交流し違った見方にも目を向けるように"という言葉をいただきました。
D Ericson先生によるケースプレゼンテーションも行われ実際の患者でカリオロジーがどのように活かされているかがプレゼンテーションされました。午後になりEwa Ericson先生による人頭払い方式と健康への奨励策として"Capitation models in Sweden"が講義されました。日本のように出来高払い方式に基づく治療はどうしても削ることに治療が傾きがちですが、2年間の治療費(審美、矯正、外傷、技工代と金属代以外の)をリスクに基づいて設定し、費用を定額制にすることによりメインテナンスを継続しやすい環境づくりができるシステムでした。これからの日本でのメインテナンスの方向付けの参考になる方式でした。

今回の研修で学んだことは、自分が歯科医師として患者や診療に対してより謙虚にあるべきであるということと、患者教育や長期的な経過を考えた診断をすることに時間をかけるべきであるということでした。またこれからの日本の歯科医療を考え、メインテナンスに対する価値観を患者さんに受けいれられる方法を考えていくヒントをいただいたと思います。

今回の研修のすばらしい機会を与えてくれた熊谷 崇先生やすばらしい講義をしてくれたD Ericson先生ほかマルメ大学の関係者の方々、オーラルケアの大竹社長、西先生、通訳をしてくれた岩上 早苗さん、また研修に送り出してくれた医院のスタッフや家族に深く感謝したいと思います。またこのマルメ滞在中、宿泊していたヒルトンホテルの部屋にてこころを癒してくれたクロード.モネの3枚の絵(当然本物ではありませんが)にも感謝したいと思います。

マルメ大学研修会に参加して                            柴田貞彦

まずは、参加の機会を与えていただきました熊谷先生ならびにすばらしい研修会を開催して下さいましたマルメ大学の関係者の方々に深く感謝いたします。

今回の研修会で何といっても印象に残ったのは、彼らの人柄でした。相手に対して思いやりの心を持ち、とても親切で、そして人を和ませるユーモアも持ち合わせていました。 セミナー期間中、ストレスを感じることもなく楽しく過ごすことができたのも彼らのこのような人間性によるところが大きかったと思います。
学生達もとても仲がいいようで、その点について質問すると「われわれは、大きな家族のようなものだ」との返事が返ってきました。学問や技術を問う前に、彼らに医療人として最も大事なものを改めて教えられた気がしました。

次に、感じたことは、既存のものに恒に疑問を投げかけ、改善していこうとする彼らの姿勢でした。教育システムのPBL、歯科の保険システムであるcapitationシステムなどもその表れと思いますし、カリオロジーの分野で世界をリードしているのもそのことによると思いました。ぜひ、自分もそうありたいと思います。

最後にセミナーで得た知識や情報、彼らと接し五感を通じて感じて得てもの、そして一緒に参加された方々からいただいた熱い想い、これらを自分の中で十分に咀嚼し、今後さらに患者さんの健康を守り育てる歯科医療を展開していきたいと思います。そして、そのことにより少しでも人々が幸福な人生を送るお手伝いができればと思います。参加された皆さん、本当にお疲れ様でした。そして、有難うございました。

マルメ大学研修に参加して                                 小玉尚伸

前回のボストン大学研修に引き続き、念願であったスウェーデンマルメ大学のオーラルフィジシャン研修コースに参加でき大変うれしく思っております。
今回の研修は私たち歯科医師の歯科医療哲学という生き方の根本が問われたものでした。そしてその姿がどうあるべきか明確な示唆をしてくれたと思います。

予防こそが最大の患者利益であること、そのためにはリスク評価が必要不可欠であること、メインテナンスが重要であること、常日頃、熊谷先生が当たり前のように話していたことが、マルメ大学の先生方によってより確かに裏付けられたように思います。また今回の研修で私たちがどのような役目を持ち、
どのように歯科医療を実践し、今後どのように展開していけばよいのか答えをいただきました。

PBLという学習法も学ばせていただきました。ISOやスタッフ教育、いろいろなシチュエーションで有効だと思いました。私自身のこれからの人生の問題解決にも用いていきたいと思います。

スウェーデンに来て感じたことは、日本に比べて物事がはっきりしているということ、言い換えればグレーゾーンが少ない。日本のように曖昧な所がないということです。
カリエスの修復時期の決定についてもスウェーデンでは明確なガイドラインがあるのに対して、日本はどうしてもすぐ削ってしまう。エビデンスに基づいて、日本の歯科医師の頭の中をキャリブレーションしないといけないと思いました。当たり前のことを当たり前にやる。スウェーデンではそれがはっきりしているように感じました。

今後日本歯科医療はどのような方向に向かうのでしょうか?小さな政府で個人責任のもとで健康管理していくべきなのでしょうか、スウェーデンのように大きな政府で国の手厚い保護のもとでやるべきなのでしょうか?どちらにしろ、私たち歯科医師の考え方が変わらない限り良い方向には向かわないと思います。私ができることはオーラルフィジシャンとして今回学んできたことを確実に地域で実践することだと思います。その勇気をもらいました。やります、明日の診療から。

最後にダンエリクソン先生、グニラブラッタール先生をはじめとするマルメ大学のスタッフの皆様、ご準備くださった大竹さん、日吉歯科診療所の皆さん、通訳の岩上さん、西先生、オーラルフィジシャンの先生方そして参加の機会をくださった熊谷先生にお礼を申し上げます。
参加した皆さんとまたお会いしてお話できる日を楽しみにしております。

スウェーデン・マルメ研修を終えて                             川原博雄

オーラルフィジシャンセミナーを終えてマルメ研修の予定を聞いたときにどうしても行きたいと考えていた。2000年に熊谷先生の講演をはじめて聞いたとき、歯科医師としての方向性を模索していた私にとって、その話は衝撃でありすすむべき方向を、自分のこれからの歯科医師人生を考えるきっかけとなりました。そして、今回の研修はその方向性が全く間違っていないことと、オーラルフィジシャンとしての役割を再確認することができました。

マルメでの研修は「Oral Healthのために」という歯科医療の本質が貫かれており、それを支えるためにチーム医療、PBL(Problem Based Learning)、MI、メインテナンス、リスク診断、Capitation system、がありました。本質は変わらないがそれぞれは時代とともに変化していく。高名なクラッセ先生さえも「先生の時代は・・・」と尊敬を持って語られていたのは驚きました。

今回の研修はとても有意義で楽しいものとなりました。これも熊谷先生をはじめ、今回の研修に携わっていただいた皆さん、マルメ大学のスタッフのおかげです。心から感謝しています。それと今回の研修で志を共にする仲間とめぐり合えたことは、私にとってこれからの歯科医師人生においてすばらしい財産になると思います。本当にありがとうございました。また、その皆さんと熊谷先生を囲んでお会いできることを楽しみにしています。

素晴らしかった マルメ研修                            千葉雅之

スウェーデンで、予防とメインテナンスを学ぶことは、私達夫婦の目標でした。
私は、熊谷崇先生の論ずるカリオロジーの学問に驚嘆し、いつの日か、その学問的背景をスウェーデンで学びたいと願っておりました。
妻も、熊谷崇先生の論ずるペリオドントロジーの素晴らしさに目覚め、年齢を顧みず、3年制の歯科衛生士学校に入学し、新幹線通学の末、昨年の春に歯科衛生士となりました。

オーラルフィジシャンの海外研修がスウェーデンのマルメ大学で開催されることを知り、当時3年生であった妻とともに、直ちにマルメ研修の申し込みを決意しました。
念願叶って訪れたマルメ大学での研修は、私達が想像していた以上に素晴らしい内容の講義がプログラムされており、終始一貫して、カリオロジーとペリオドントロジーのエビデンスを学ぶことができました。

セミナー参加に先立ち、熊谷崇先生から重要なアドバイスを頂戴いたしました。
マルメ研修の目的は、「スウェーデンの歯科医療哲学を学ぶこと」であり、「どんな哲学を持って歯科医療に臨めば良いのかを自分で感じ取ること」にありました。

故 D.Bratthall教授が率いるマルメチームは、後任のD.Ericson教授に引き継がれ、G. Bratthall教授と共に、素晴らしいスタッフでチームが構成されていました。
私達は、この素晴らしい講師陣から、カリオロジーとペリオドントロジーの真髄を学ぶことができました。研修プログラムにおける完成度の高さ、時間的配分と研修生への細心の気配りには、目を見張るものがありました。

今回、スウェーデンを訪問し、五感を通じて多くのことを学びました。現地を訪れ、五感で学んだ、この貴重な体験は一生忘れないものになると思います。

スウェーデンから帰国し、以前とは異なる歯科医療哲学が自分の中にしっかりと構築されていることに気が付きました。その哲学を元に、医院の診療システムをもう一度見直し、再構築をして、真の患者利益の追求に努めたいと思います。

最後に、熊谷崇先生と 故 D.Bratthall教授のご尽力に、心から感謝いたします。
貴重な研修プログラムに参加させて頂き、誠にありがとうございました。

マルメ研修を終えて                                 大貫佳鼓

この研修を無事終えることができほっとしています。
まず初めにこの素晴らしい研修を企画、運営してくださった皆様に感謝しお礼を述べたいと思います。マルメ大学の方々、熊谷先生をはじめ日吉歯科診療所およびその他のスタッフの方々有り難うございました。

スウェーデンの研修には参加を熱望していました。日本にはないカリオロジーについての講義を受けたい、またカリオグラムが開発された所へ勉強に行き多くの事を吸収したいと思っていました。研修の詳細についてはこの感想文には納めきれないほどのものをいただきましたので、違う視点の部分を書かせていただきます。

歯科医療の違いが日本とスウェーデンにおいてなぜこれ程生じているのか、それを知るためにも歯科医療の哲学を学ぶつもりでいました。
その背景には社会の成熟について大きな相違がありました。これは制度の問題ではなく国の気風から来るものではないでしょうか。お互いが個々を認める精神的な成熟がまずなにより日本よりも進んでいるようです。
研修では講義だけでなく実際に町に出て様々な施設も見学させていただきました。公共設備は年齢や性別が仕事に影響しないように考えられて整い、老いも若きも自然に生きていくことのできるように構成されていると受け止めました。国を構成するには労働力が必要なために、これらの国の施策が必要なのだとは思いますが、派手な物は町にも大学にも存在せず、必要な物には投資がなされていました。
もしも自分が車椅子になっても町を一人で散歩でき、子供だったとしても安全にそして楽しく成長する場が提供されている、老いても町の中に住み社会の動きを感じていくことができるでしょう。この点が日本との大きな違いです。
私の経験を通じて日本の設備に感じることは、田舎では子供が安心してお留守番する場所を作るのにとても精力を必要とし、都心では支援態勢は整っているものの、人間というより預け物と変わらない要素が生じやすく、果たして子供の心の成長がきちんとなされるか常に心配しながら仕事をしています。
まずは個人の成熟ですが、公共設備や資財をどう活用するのかは社会的な成熟が大きく要求されると感じました。

この背景が歯科医療の発達にも差を生じさせているのではないかと思います。スウェーデンでは優秀な人材でなければ歯科医療に携わることができず、問題解決の中から歯科医療従事者としての成長を促す制度が工夫されていることに感心しました。
セミナーで聴講した問題解決型学習法(PBL)はすぐに日本においても活用されるべきものです。ほかの講義においてもまだまだ医療の問題点はあると講師が話していましたが、確かに制度が進んでも問題も生じるとは思います。例えば口腔内においても薬物の使用による治療が日本よりも進んでいますがこれはもしかすると一般医療においても認可されている薬も多いかもしれないという疑問を持ちました。症状がよほど悪化しない限りは専門家によるケアでないと発見がしにくい場合はどうなるのであろうかと疑問でした。

健常なときにはメンテナンスが良好に進んでいればインプラントの埋入などでも安心ですが、健康を損ねた場合、口腔内のケアは格段に困難になります。日本の特別養護施設に該当する高齢者の施設では、障害により会話などのコミュニケーションが困難になることや、またレントゲン診査を行わなければ発見できないものでその連携に苦労をしています。スウェーデンにおいても高齢者のインプラントについては問題視されてきているようですが今後どのようになっていくのかは興味深いです。日本でもスウェーデンと同様の問題点が沢山生じてくると考えています。少子高齢化による労働力の確保、歯科医療においてもインプラント埋入のなされている患者さんの高齢化等は必ず日本にも起こるものと思います。日本の家族構成の違い、社会的習慣、精神的成熟度といった多くの2国間の相違点を考慮した上で、日本ではどうすればよいのかを考えていかなくてはいけないと感じました。

勤務医であるという立場上、いろいろな配置を経験させられますが今回再認識したことがあります。
病院勤務時代において末期癌の方や重度の障害の方の口腔内の管理を経験し、ここから私の予防は始まりました。この後の勤務地では口腔内は健康であるが歯科医療ができない勤務地で職務をする方々に口腔内を清潔に保ち健康を維持させる必要性に気付き、予防歯科を今の職場に浸透させようと決めました。産業歯科医の要素でもありますが職業の期間を通じてそこに働く方々の口腔内の品質を保証し、生涯健康であることを伝えていくことが私のなすべき事です。そのためにメンテナンスの必要性を説き「国防を守る方々の口腔内を守るのが私の仕事ですよ」と患者さんに明るく話しながら今回の研修から得たものを一つでも多く職務に活かすようこれからも頑張っていきます。
有り難うございました。

マルメ大学研修を終えて                                 晝間康明

5日間のマルメ研修は私にとって、脳と魂を揺さぶられ歯科医療従事者としての使命を再確認させられる時間と空間でした。

一方で、私たちが実践しようとしている、メインテナンスを主体に患者利益を真のエンドポイントとした歯科医療の先には、歯科医療従事者・患者・国にとってこのような環境が待っているのかということを具体的に理解でき、日本の歯科医療を変えることが出来たなら将来の歯科医療人としての生き様は満足できるものになるという確信を得られた研修でした。

今、私たち日本の歯科医療に携わる者が「真の患者利益を提供するため」に乗り越えようとしているハードルは、1940年代のスウェーデンの口腔健康状態とほぼ同様な状態にある日本人の口腔健康状態や意識を、一気に現在のスウェーデンと同等の状態に変化させうるほどの高いものと言えるでしょう。

しかし、このハードルを越えられなければ日本の歯科医療を変えることは出来ないと思われますが、その具体的な方法を日吉歯科が日々の診療で実践し示してくれていることもスェーデンの歯科医療現場に踏み込むことで深く理解する事ができました。

マルメ大学での貴重な経験を、研修を終えた翌日の診療より生かします。

熊谷崇先生をはじめとする日吉歯科スタッフの皆様、Dan Ericson 教授、Bo Krasse教授をはじめとするマルメ大学の皆様、親切で決め細やかな配慮の行き届いた5日間を提供していただき、本当に、本当に、本当にありがとうございました。


スウェーデンマルメ大学研修を終えて                        徳本美佐子

この研修で、熊谷先生とダグラス・ブラッタール先生の強い友情と、マルメ大学の多くの方々の思いやりと優しさ、そして熊谷先生が海外でも多くの方に尊敬されていることを改めて感じました。

その友情や尊敬の念は、たやすく得られるものではなく、熊谷先生が「日本の歯科界をかえる」ために多くの困難に立ち向かいながらも、決して諦めずに自分の道を歩んでこられたことで培われてきたのだと思いました。また、その歩みをデータとして残していたからこそ、人を動かすことが出来たのだと思います。熊谷先生が日ごろ力説しているデータの重みを、違った意味で痛感した研修でした。
多くの方々の多大なる努力があって、今回の研修が開催されたことを肝に銘じて、今回拝見したスウェーデンの医療、教育、福祉の中で感じた哲学を忘れることなく、学んだことを、今後の日本の歯科医療に生かしていかなければと思いました。

スウェーデンの価値観が「国民の人間としての尊厳」に向いているのに対し、日本では「個人の利益」という大きな違いの中で、熊谷先生が求めていることを実行していくことはたやすい事ではないと思いますが、オーラルフィジシャンを目指す先生方と歯科衛生士部会Hygeiaでは、「医療は誰のために、何のために」という哲学を同じものとし、日本の歯科界を変えるための歩みを続けていかなければと思いました。

最近、熊谷先生がおっしゃっているような歯科医療は、簡単にはできないのではないかと少々挫折気味だった私ですが、会長として歯科衛生士部会Hygeiaを、マルメ大学の歯科衛生士さんようなプロとして誇りと責任を持った歯科衛生士の会にしていかなければと思いました。何をどのようにしたらいいのかという青写真を描くことはまだ出来ていませんが、ボー・グラッセ先生がおっしゃっていらしたように、多くの人と意見交換をしながら。どうぞ皆様、多くのご意見をHygeiaにお寄せください。

日本では、熊谷先生や一部の先生にしか感じることが出来なかった、「医療者としての哲学」がマルメの町には溢れていました。

日本中にこの空気感が溢れることは難しいかもしれませんが、せめて、オーラルフィジシャンを目指す医院ならば、どこに行っても同じ空気が流れているという日が早く訪れることを願っています。そのために、私も、今回学んだ哲学をバックボーンに、知識、技術、人間性を加え、社会貢献できるプロフェッショナルを意識しながら学び続けて行こうと思います。

今回の研修開催にご尽力くださったすべての方に、「医療者としての哲学を体感でき、ユーモア溢れる素晴らしい研修をありがとうございました。」と御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。

マルメ研修に参加して                                    石澤尚子

私の参加目的は、世界の頂点であるマルメ大学の歯科衛生士教育を自分の目で観て、日本の教育との違いを見つけることでした。そこから何かが得られると思い参加いたしました。
今現在行われている日本の歯科衛生士教育は、日本の歯科界の歴史的背景に沿って構築されているものですが、私には、国民のニーズに沿わなくなってきている分野や、遅れてしまっている教育的理念があるように日々感じていたからです。
そこで、世界のトップを知ることでどこが違っていたのか、大雑把ですが見つけられたことを自分の言葉でまとめ、それを感想にさせていただきます。

教育的内容:教室学習よりも早い時期から人(学生相互実習・病院内・外部臨床実習)と接する時間が豊富であった。歯科医療は対人が基本でありその上で成り立つ技術・知識であることを自己覚知しながら学べるため医療科学と実践と結び付けていた。

その実践:PBL形式で、一方的に教えられるのではなく、与えられたテーマについて学生自身で問題を見つけ、考察しながら自分で答えを得てゆく。学生は歯学科・衛生士科・技工士科と専門の枠が無くなく、多学科で行うため専門連携〔チーム医療〕が問題解決の基礎となっている。ステップごとに6~8人グループによる検討会を行う。常に「チューター:グループワーカー」による援助とプログラム活動から個人の成長と望ましい社会的諸目標が達成されてゆく。最終的に権威ある教官から更正されることにより、さらに展開がなされる。その間、そのテーマは臨床実習と交互に行われているため、臨床と知識の密接な係わりから答えを習得している。「自分から学ぶ」ことで学生の高い意識や知識、技術にその差や偏りがない状態が生じている。

臨床:カリエス・歯周治療等の歯科治療基礎学が、常にデータによる科学的根拠を基にしているため、必要な治療の見極めや、無駄な治療や処置がなされないための理由がきちんと理解されてから臨床に繋げている。

社会的背景〔社会保障等〕:子どもから高齢者まで医療・保健・福祉に国の制度が整えられているため、国民自身の生活や健康に対するQOLの高さやニーズが自然な形で守られており、日本における格差や孤立の問題から生じる歯科医療の問題とは種類が違う。そのため、医療従事へのニーズも違っているように感じた。それは、大学教育や臨床が社会との「ずれ」が少なく、学生にとっても理想を更に追求できる社会環境があるように観えた。

といったおおきい枠から、社会や教育機関が、学生に対し自から学びたい意欲をエンパワメントしているように観えたことが「違い」のように感じました。
ほかにもたくさん学んだことがありましたが、それらを少しずつ消化しながら明日の自分に繋げてゆきたいと思います。

また、最終日に頂いたコメントは、このたびの研修に参加できた最高のプレゼントでした。
〔何よりも学んで欲しいことは、その人の生き方が全て臨床に直結している。歯科科学的根拠(知識)や臨床技術、は持っていて当たり前であって、一番大切なことは、その人が患者さんに対して何が一番必要か、患者利益を考える人間性を養う環境が大学教育の理念です。ただし、最期は、その人のハート、熱意です。〕と。
感銘とともに今、歯科衛生士教育者を目指すために再び学生生活の私に最高のエールを頂いて帰ってまいりました。本当にたくさんの方々に支えていただきながらの研修でした。心から感謝の気持ちをこめて「ありがとうございました」と申し上げさせていただきたいと思います。

オーラルフィジシャン アドバンスコース スウェーデン・マルメ研修             冨山 美菜

歯科医学の本質というのは、"患者さんに疾患の原因を伝えて、健康の状態を維持するように導くこと"とあるが、果たして患者さんにとっての真の利益とは何か?

今回の研修を通して私なりに考えたことは、単に口腔内にカリエスや歯周炎等の疾患がないことが"健康"である・・・という考えに留まらず、もっと大きな背景で、口からおいしく食事をし、自分の意思を言葉として表現することで人とのコミュニケーションをとり、笑顔でいられること・・・つまり、患者さんのQOL(生活の質)を維持することこそが、患者さんの真の利益だと感じられました。

そして、これを追求するためにも根拠に基づき、それぞれの患者さんのリスクを"スコア"化、そのデータから評価することで、個人に合わせた方法を用いり、これを指導や押しつけるのでなく、"健康とは何か"を患者さん自身に気づいて頂けるよう支援することを歯科衛生士が担っていると強く思いました。
つまり患者さんのエンパワメントに寄り添うことが、今後自分が歯科衛生士として動いていくための"哲学"になると、今回の研修における答えを見つけられた気がします。

また、マルメ大学での研修において、自主的に熱意を持って勉学に取り組んでいる学生や、誇り・責任・自信に満ち溢れ、凛とした姿の歯科衛生士の先生方にお会いできたことで、大きな刺激を与えてもらえました。
そして自分もこうなりたいと強く思います。

これから歯科衛生士として新たにスタートをきる私には大きなターニングポイントとなりました。
研修において準備を進めてくださった先生方に対し多大な感謝の気持ちを送るとともに、今回参加できたことを大変うれしく思います。
ありがとうございました。

マルメ研修に参加して                              菅原佳子

今回、マルメ大学研修に参加させていただき、ありがとうございました。
私にとって歯科医療先進国のスウェーデン研修は夢でありましたし、参加資格を得るにはとても苛酷な状況の中ということでしたので、このまたとないチャンスを与えてくださった熊谷先生に深く感謝いたします。

しかしながらこのチャンスはとても幸運なタイミングでやってきました。当院の活動として2005 年メインテナンス・ルネッサンス受講から始まり、オーラルフィジシャンコース受講、ISO取得への取り組み、新規移転へ向けて建設中という加速度的な展開の真っ最中です。
この機会に「歯科医療哲学」を学び、自分のすべきことを明確にすることで真の患者利益の追求がなされるのだということを胸に参加しました。

私がスウェーデンについていだいたのは、PBL学習法にもみられるように常に研究、データ収集に基づいた見かたができる合理的な国家であるように感じました。日本を比較すれば政治的な変革も要求され、やはり熊谷先生の姿勢は日本の歯科界における救世主であると思えます。
私のすべきこと、それは正しきことを訴え続ければ必ずや目的は果たされることを信じて、今回のマルメ大学研修参加の方々と気持ちを同じくして明日からの診療に臨みたいと思います。

スウェーデン、マルメ大学研修に参加して                  坪山郁世

初めて熊谷崇先生のご講演を聞かせていただいた時に、まず興味を持ったのがスウェーデンでの歯科医療でした。いつか行ってみたい、自分の目で見てみたいと思い今回のコースがあると聞いたときはチャンスだと思いました。
参加は即決で決め、かなり期待したなかの受講でしたが、ダン・エリクソン先生を始めすばらしい講師の方々の講義を受けさせていただき、また、高齢者のためのホームやヘルスセンターやマルメ大学内の見学と非常に充実した一週間を過ごすことができました。

最初にイントロダクションとして歯科医療の本質をお話いただき、私たちが関わっている歯科医療というものが人に与える影響と医療としてどのような心持で行うべきかなどを確認させていただきました。午後の講義では今回のセミナーでもっとも感動したことでもありましたがPBL(問題解決学習)には今までの私の経験にはないものでありました。
院内に後輩ができた私には一緒に勉強する仲間が増えたのですが、従来道理の誰かの発表を聞くことや誰かに教えてもらうような勉強方法しか知らず、それだけで今まできましたが「何かが足りない」「もっと参加型にできないか」などの悩みを持っていたので凍解氷釈な気分になり、ぜひ形にできればという気持ちになっています。
PBLの講義での中でP.Carlsson先生が{知識はアイデアにつながる}とおっしゃっていた言葉が心に残りました。デイスカッションしながら知識を確認し深めていくような勉強会は他の参加者の意見も聞け、自分も発言することで知識もさらに身につき実践につなげていけるため私自身、是非参加したいです。
これからどのように形にして、まずはスタートをきれるかを院長と相談し医院に残していきたいと考えています。

カリエスの進行やリスクファクター、修復する時期などの講義はかなり楽しく聞かせていただきました。
レントゲン診査の講義は解釈のずれを浮き彫りしに、完全なレントゲン診査を求めるより、患者さんの生活背景を含むリスクファクターを考えた上で技術を提供しなければならないということを勉強させていただきました。また、削ることより再石灰化を求めていくことが歯の保存につながることも改めて確認させていただきました。
日本では薬剤などの使用に限界がありますが、Ericson先生がおっしゃっていたように{充填を期待しない患者教育}なら私たちにもできるわけです。これからの課題として理解させていただきました。
メインテナンスの授業では歯科衛生士として明日からの臨床に役立つことを多数教えていただきました。例えばインプラントなどは日本でもかなり増えてきていますがメインテナンスができない歯科衛生士も多く、インプラントを行っている歯科医院でもメインテナンスを重要視しないことがよく見受けられますが、これからのインプラント周囲炎などの見解も注目して埋入したインプラントが長く使えるようメインテナンスができればと思っています。K.Stagner先生がおっしゃっていた{プラークを完全に取る}という言葉をキーワードにしてこれからもメインテナンスをしていきたいと思います。
ぺリオリスクファクターに関してはエビデンスをもって診断を行う上で提示していただいた表を参考にできればと思っています。{What is maintenance?}のスライドの最後にSPT=メインテナンス、プラススマイルとおっしゃっていましたが私は少し反省をしながら聞いていました。患者さんの前ではスマイルでも診療が終わるとスマイルは消えていたのではないかと思い当たるところがあります。K.Stagner先生のようなスマイルができるようになりたいと思います。
Bo Krasse先生に歯牙う蝕の歴史についての講演をしていただき、現代のカリオロジーにつながる発見をしていただいたおかげで患者さんは歯を守ることができる歯科医療を受けることができたのだと理解しました。

各所見学させていただきましたが、マルメ大学の最新の実習室では羨ましくおもい、デンタルヘルスセンターの見学では医院が使いやすいようとても綺麗に整理されていたことに感激しました。
スタッフがチームを組み、一人の患者さんを診ていてスウェーデンの社会構造に則って診療されておりました。診療されるスタッフなどが利用するマッサージ室は私の理想でもありました。患者さんに販売する歯ブラシなどの展示がとても見やすく並べてありました。大きな歯ブラシのデイスプレイなどがかわいらしく職場に来たくなるような診療室でした。待合室では治療前にスタッフから説明を受けている患者さんと治療を終えた患者さんがいらっしゃって、説明を受けているときに治療を終えた患者さんの杖が倒れてしまったのですが説明していたスタッフの方が自然と話しながら手を貸していらしている姿を見たとき、話していることは分かりませんでしたが行動があまりにも自然だったためか見ていてとても心がすっきりした気分になりました。 患者さんへの対応について過剰な医療サービスと評されるものもありますがここでは違い、親しげで押し付けている感じがありませんでした。
保育園では子供たちが寒い中、森で過ごし自然と過ごすカリキュラムではお昼寝も外で寝袋を用いてすることにはびっくりしましたが子供たちはとても笑顔があふれていました。
一等地に建っている高齢者のためのホームでは皆さんに笑顔で迎えられ、新たな生活を共通の趣味を持ったお友達と過ごされている入居者の方々が微笑ましく感じました。スウェーデンの方は皆さん優しく大らかであると知ることができました。

ターニングトルソは講義続きだったのできっと気分を変えさせてくれるための見学だったのと考えています。

スウェーデンでの講義は私たちを楽しませるようなユーモアを交えての講義でありました。自分自身のスライド製作にユーモアを参考にしたいと思います。また、コーヒータイムや換気などもあり1週間という長い時間でありましたが最後まで夢中で参加させていただきました。研修が終わり、あまりにもあっという間でありましたので今度はもう少し長くいたいと考えています。

マルメ研修に参加するにあたり診療の長期休暇をもらうため私が担当している患者さんに休む理由を話していると、沢山の患者さんが私が休むことを喜んでくれました。アポイントが入らないことより私がスウェーデンで勉強すれば自分たちのメインテナンスに返ってくるからと言われました。そして勉強したことを教えてほしいとも言われました。
今回の研修では担当している患者さんや私の周りの方々、マルメ大学の講師の方々やスウェーデンの方々の暖かい人間性に感激しました。スウェーデンでは語学力があればもっと質問もできたし講義もスムーズに聴けたかと思うと悔しく思いますが、またいつかスウェーデンに勉強に行きたいと思います。その時はもう少し英語ができるようになっていたいです。

自分を待っていてくれた患者さんのためにもプライベートクリニックで勤務されているCarinaさんがおっしゃっていたように{もっと健康な患者さん}を増やせるように私も歯科衛生士として努力していきたいと思います。

最後にこのような経験をさせていただいて熊谷先生をはじめマルメ大学の方々、通訳の方々や今回の研修を企画、運営していただいた方々に本当に感謝しております。ありがとうございました。

念願だった マルメ研修                              千葉悦子

私が、熊谷崇先生の講演を初めて聞いたのは、6年前、仙台でのことでした。
補綴学講座で教授の秘書業務を行なっていたため、補綴の知識はある程度ありましたが、熊谷崇先生の講演を拝聴し、カリオロジーとペリオドントロジーの概念に頭を殴られるような衝撃を受けました。
講演を聴くたびに、「このままではいけない…」という思いを、東北新幹線の中で、主人と激論しながら帰ることを繰り返しました。

そこで、年齢も顧みず3年生の衛生士学校の門を叩きました。その後も熊谷崇先生の講演会は幾度となく参加し、酒田に何度も通いました。
私が、衛生士学校3年生のとき、スウェーデンの海外研修の募集を知り、「是非、カリオロジーとペリオドントロジーの学問背景を学びたい…」と思いました。

飛行機で11時間をかけて到着し、バスで訪れたスウェーデンのマルメ市は、人口30万人の都市で、思っていたよりも田舎でした。創立60周年を迎えたマルメ大学での研修において、天気予報より当るカリオグラムをはじめ、世界最先端といえるスウェーデンの予防歯科医学を学ぶことができました。
イントロダクションにおいて、大脳皮質の運動野は、手と口が大半を占め、口腔を扱う私達の担う責任は重いことを痛感いたしました。

G.V.Black先生は、「充填をしたからといって、う蝕への可能性が無くなったわけではない。」「う蝕の原因がわかれば、その対策がとられるだろう。」と提唱し、100年以上前に現在の歯科医学を予測された、偉大な先生であることを知りました。

歯学教育においては、自分達で問題を探求解決しながら学ぶPBLをはじめ、5年生教育の1年次から患者を診療し、5年次の大半は患者を診るという臨床型の教育体制がマルメ大学にはありました。
歯科衛生士教育においても、歯学教育と同様にPBLを活用し、1年の後期からは、週3回の患者実習がスタートするという臨床実践型の学習システムは、日本の歯学教育、歯科衛生士教育が抱えている問題を全て解決できるシステムであると感じました。
保育園教育においても、自然や生活を取り入れた学習法で、入園時の診査も迅速に行なわれ、女性も働ける環境が整っていると感じました。
公衆歯科衛生においては、0~19歳まで治療費が全くかからないため、理想的な歯科教育とメインテナンスが行なわれていました。

カリオロジーにおいては、どんなに美しく充填、修復したとしても、それは永久的なものではないため、再治療を繰り返している現状は、日本と同様であると思いました。歯を削る時期を遅らせるために、う蝕のリスクを判定し、患者教育によるリスクコントロールが大切であることを学びました。
スウェーデンの歯科診療チームは、それぞれが自分の専門性に誇りと責任を持ち、日常臨床を楽しんで行なっているように見えました。

スウェーデンのカリオロジーとペリオドントロジーの概念は、日吉歯科診療所で普通に取り入れられていることに感銘し、Bo Krasse教授に直接お会いすることができたことから、メディカル・トリートメント・モデルの実践が極めて重要であることを再認識いたしました。

今回のマルメ研修に際し、参加の機会を与えて下さいました熊谷崇先生に、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

マルメ研修を終えて                                     前田奈美

今回マルメ研修を終えて、行く前と後では知識はもちろんのこと、自分の中でもたくさんのことが大きく変わったと感じています。

"日本の歯科医療が遅れている"ということは数々の講演や文献にてよく耳にする機会がありました。
「アメリカやスウェーデンはすごいんだ。衛生士もプロとして働いている。」
そう聴いてきたし、私もそう思っていました。

今回、実際に目で見て、肌で感じ、講演してくれた講師の方々をはじめ、働いている彼女たちの魅力に圧倒されました。自信とオーラに満ちあふれている彼女たちはとても生き生きしていて、いつも笑顔でした。

パブリックデンタルオフィスにて、私に話しかけてくれた一人の衛生士さんがいました。英語がわからずなかなか通じなくていても、どうすれば私に通じるかそこの衛生士はいろいろな道具をだしてきてジェスチャーをしたり、分かりやすい英語に置き換えたり、一生懸命コミュニケーションをとろうとしてくれたことをとてもうれしく感じました。それと同時に、これが患者さんへもいえることのようにも思えました。そのとき患者さんが理解できなくても、どうすれば分かってくれるかあの手この手で伝えているのでしょう。

患者を管理するということは、患者に自分の思いをきちっと伝え、理解してもらうことも大切なことの一つです。しかし患者に対してだけではなく、見学者でもあり、さらに外国人である私に対しても自然と出来る彼女は本当に魅力のある人だと感じました。

その他いろいろ感動もあり、笑いもあり、本当に多くのこと学べるこの研修に、参加できたことを幸せに感じます。
スウェーデンにてたくさんのエネルギーを注入されてかえってきました。
このエネルギーを今後の診療へと生かしていき、世界に通用する衛生士をめざせたらと思います。

マルメ研修を計画してくれた院長とエリクソン先生をはじめ、マルメ大学の講師の先生、そして参加したメンバーの方々には本当にお世話になり、ありがとうございました。
そして、なによりもブラッタール先生には感謝の意でいっぱいです。

マルメ大学研修に参加して                         加藤純子

今まで受けてきた卒後研修は、スケーリングの方法、モチベーションの持たせ方といったスキルを学ぶものでした。今回のマルメ研修では、改めて「歯科医療とは何か」ということについて考える機会を得ました。

研修を通して、私の心に一番残った言葉は「歯科衛生士とはHealth workerである。」という言葉でした。日々臨床で行っている、口腔健康の増進、口腔疾患の予防、そして口腔疾患への必要な処置、という歯科医療行為が、全身の健康の増進につながっています。

"A Healthy Mouth in a Healthy Body" マルメ大学歯科衛生士学校の校長先生であるカタリーナ先生に講義の最後にいただいた言葉です。
まだ、口腔の健康増進、疾患予防に関しても修行中の私ですが、このことを、マルメ大学からの一番大切なお土産として、心に残しておこうと思いました。

マルメ研修感想文                                斎藤洋子

今回、マルメ大学の研修に参加させていただいたことに心より感謝いたします。世界トップレベルのクオリティの高いお話をお聞きできたことを幸せに思っています。

わたしはいままで診療所の手伝いなどはしてきましたが、特に専門的なことを勉強した経験もありませんでした。そんな私でも、歯科医療で何が大切なのか。何を目指さなければならないのかがわかったような気がします。

患者さんと話しているなかで、若いお母さんが子供のためにメインテナンスをしていることに対して、家族の理解が得られずに悩んでいる人がいたり、メインテナンスに対して真の理解ができていない人がいたりしました。
今まで私は、そのような人たちの話を聞くことはできても、メインテナンスの重要性を説明することができませんでした。わかっているつもりでも、自分の中に明確な確信がなかったのだと思います。今回の研修に参加して、明確な確信を得ることができ、「メインテナンスは生涯健康であるために当たり前のことです」と、今までよりしっかり伝えることができるようになったと感じます。
 
私自身、子供が小さいときに、甘いおやつを食べなかったり、食後に歯磨きをしようとしている我が家の長男の姿を見た他の母親から、ストイックだといわれショックを感じたことがありました。しかし、それに対して明確に反論することができませんでした。
いまは、はっきりとそうじゃない、健康な歯を守り育てることが当たり前で、それは充分に可能なことなのだ。いろいろな裏付けに基づいて、一人ひとりにあった守り育てるやり方があるのだということが確信できました。世界に羽ばたく子供たちに、世界基準を備えてあげることが親として当たり前なのだと感じました。

これからは、しっかりと自分の物差しを持ち、それに対していつも修正を重ねながら、スタッフとイメージを共有し、診療所全体の強さ、総合力をアップすることができるように努力したいと思います。
この研修を企画準備してくださいました、熊谷先生、ふじ子先生、エリクソン先生、マルメ大学のスタッフの皆さん、大竹さん、日吉歯科のスタッフの皆さん本当にお世話になりました。ありがとうございました。