SAT 真の患者利益のため予防歯科を中心にした歯科医療へ

歯科界の常識を超えるためのパブリック・コメント

歯科界の常識を超えるための
パブリック・コメント



NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」~ぶれない志、革命の歯科医療が放映されました 「カンブリア宮殿」に熊谷崇が出演しました 日吉歯科診療所 あしたのコミュニケーションラボ

熊谷崇先生の「健康社会を支える医と産業の新しい連携」を読み解く

SAT事務局 伊藤日出男



本小文は去る3月6日に、富士通会議室で行われた熊谷崇先生の講演「健康社会を支える医と産業の新しい連携」を、熊谷先生から提供いただいた資料とアドバイスを元に文書化したものです。当日は会場の都合により、富士通関係者と少数の歯科医師にしか参加いただけませんでしたので、講演録として、サブノートとして、多くの方にご一読いただければと思います。



医療制度は官主導から民主体へ

医療に関する話題が、メディアに取り上げられない日はありません。「健康に、より良く生きること」が人生にとって最重要テーマであり続ける以上、医療はいつの時代も私たちの関心事であり続けます。平均寿命が世界1位、一億総健康志向の現代日本においてはなおさらのことです。かたや医療費は年々上昇を続け、さらには老人医療や介護の問題を国として、制度として、どう担保するのか、その費用負担をどうするのか、といった議論も百家争鳴の観を呈しています。健康志向と医療費問題に釘を刺すかのように、2015年厚生労働省は、歯科予防メインテナンスは保険適用外であることを公にし、健康保険制度は疾病に対するセイフティーネットであることを改めて明確にしました。その背景には、健康保険医療費の支出が右肩上がりで、財源のGDPは右肩下がりの典型的「ワニの口財政」の現状と将来にあることは、論を待ちません。期せずして健康保険組合の約7割が赤字という現実は、日本の医療制度の官主導の限界を示し、経済原則に沿った民主体へ移行の可能性を示唆しています。



企業の健康経営へのアプローチ

実業界においては社員の健康を経営資源と捉え、主体的に社員の健康を守る企業が注目されています。福利厚生に対する現代の企業意識は、経営戦略の延長線上に位置づけられ、社員の健康が収益の向上と雇用の安定・促進へ直結することに向いています。企業の健康支援として、定期健康診断の実施、健康セミナー開催、フィットネスクラブへの加入などがありますが、現在では健康・予防に対する助成金制度も包括して「健康経営」としてクローズアップされています。経済産業省は、社員の健康支援を経営的視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として、2016年には「花王」など大手25社を選定しています。大手企業だけではなく、日吉歯科診療所の働きかけにより、(株)平田牧場/上喜元の酒田酒造(株)/サーモテクノ(株)/ホテルリッチ&ガーデン酒田など庄内地域の企業と(株)ナカニシ/シロナデンタルシステムズ(株)など歯科関連企業が、さらには大手電機器メーカーも賛同して社員の福利厚生の一環として、歯科メインテナンスなどに健康助成金制度を取り入れる動きが特筆されます。



主な歯科メインテナンス助成金導入企業

株式会社平田牧場 株式会社ナカニシ SIRONA

上喜元 ホテルリッチ&ガーデン酒田 サーモテクノ



高齢化社会がヘルスケア・リフォームを推進

予防医療はその性格ゆえに、なかなか企業経営の仕組みの中で成立しにくいものでした。「予防」はあくまでも個人の意志に委ねられるものであり、またその成果が見えにくいため企業がその対価を支払うべきものとは見なされていなかったためです。しかし、少子化による生産年齢人口の減少と相まって高齢化が進み、2013年に高齢者雇用安定法の改正法が施行され、段階的に希望者全員を65歳まで雇用することが企業に義務づけられました。また、日本人の疾病構造が感染症から生活習慣病へと変化した結果、企業は有病率の高い高齢者が、健康な状態でそのリテラシー・スキル・ノウハウを発揮できるようにするため、福利厚生の一環として予防医療を積極的に取り入れる傾向が出てきました。さらには副次的な現象として、予防医療によって企業の疾病手当の減少と長期的には健康保険料負担の抑制といった経済性も期待され、民間主体でヘルスケア・リフォームの第一歩が確実に踏み出されたといえます。



患者と医療機関の関係変化

企業が社員の健康に投資し始めると、健康保険制度に依存してきた医療機関と患者の関係、とりわけ短期的には効果が見えづらく、健康保険適用外の予防医療を求める患者との関係は変化してきます。公的医療費を消費する患者は物言わぬ顧客でしたが、「健康経営」を命題として助成金を出す企業は、医療を一つのサービス財として捉え、その対価に対して効果を論じたり、より高い満足度を求めたりしてくることが必然となってきます。今までは〈患者(支払基金)↔医療機関〉であった関係から、〈企業(患者)↔医療機関〉の関係も加わり変化してくるのです。同時に企業は支払う対価に見合う医療サービスなのかどうか検証する術が欲しい、あるいは、どうすればより質の高い医療サービスを社員が享受できるのか、市場原理や経済原則で医療機関を評価するようになってきます。少なくとも医療機関の価値観や仕組みを、健康保険制度のフォロワー的アプローチに縛られことなく自由に構築できなければ、企業の評価を得ることは難しいでしょう。このような経営環境の変化の中、健康保険制度にあぐらをかき、現状維持を図ろうとするならば、例え新しい技術やシステムを持っていたとしても、淘汰されていく医療機関の予備軍となっていくでしょう。



哲学の上にシステムは成り立つ

自らの医療サービスの位置づけや価値提供のあり方を発想の原点から見直し、哲学を持った医療機関が評価されるのが、個人金融資産約1600兆円を有し、高齢者の就業化が進み高齢者が主役となる日本社会です。こういった話をすると、保険制度や医療の特殊性を持ち出し、一概にそのように進むものではないと指摘されるのが常ですが、哲学を持った者が市場に評価されることは業態の如何を問わない摂理で、例外はないのです。以前、予防歯科の国際シンポジウムにおいて、日本の健康保険制度をエクスキューズとしたパネリストに対して、Professor of Experimental Preventive Dentistry Associate Dean Academic Centre for Dentistry Amsterdam (ACTA)のTen Cate先生がオランダの予防制度の失敗を例に挙げ、「制度でなく、歯科医師が何を重視するかが大切です」と応じられ、登壇者は保険制度を言い訳にできない雰囲気になったと聞きます。Ten Cate先生が言うところの「何を重視するか」は、医療人の思想や哲学の必要性を示唆しています。Ten Cate先生の発言を予防歯科が置かれている現状に則して意訳すると、「今まで取り入れたシステムやそのノウハウも、企業の評価や健康意識の高い国民の要求に沿うには、医療人としての哲学を持っていなければ、そのオペレーションは薄っぺらなものになり、自らのメッキが剥げていく様を制度の崩壊と共に目の当たりにすることになるでしょう」と、語られているのではないでしょうか。



変化・変革の先はブルーオーシャン

ここまで話してきて、変化がどのようなきっかけから生じ、それがどのようなプロセスを経て改革へ結びつくのか、という点は医療人にとって示唆深いものがあります。先進的な一番手は、時代を先読みして動き、周りからは非常識に映ります。しかし、その動きを関心深く見る二番手が現れます。これが連鎖反応となって進行し既成事実となり常識になると、官(行政)も新たな動きに沿って動かざるを得なくなります。すると、規制もまたこの方向にそって手直しされ、新たな動きが一層加速されます。このことは流通・小売り・マルチメディア・教育と、あらゆる業態が証明してきた、変化が改革となるプロセスです。このプロセスは予防歯科の未来にとって意味深いものです。なぜなら、現在も将来も医療改革は官による一律で強制的な執行(保健負担増減など)ではなく、官民一体ないし民間主体により進行していくからです。競争原理に則った、各種各様のまだら模様の変化の中で変革の流れを的確に捉えて、健康保険制度に縛られない「新たな予防歯科の価値提供システムの構築」をテーマとした歯科医院には、新たな利益を創出するブルーオーシャンが広がっているはずです。


以上文責 伊藤



渋谷健司先生から熊谷先生へのメッセージ

OP倶楽部で御講演予定の東京大学教授の公衆衛生学者・渋谷健司先生から熊谷崇先生宛てに下記のような文面が届きましたので、皆様と共有させていただきます。


ちょうど本日の日経に、塩崎大臣の寄稿が載っておりました:http://www.nikkei.com/article/DGKKZO98915310W6A320C1TZQ000/

保健医療2035に基づいて「医療の役割の再定義」「医療の価値の転換」「保健医療を通じて世界に貢献」という意欲的なものですが、そのいずれも熊谷先生らが実践をしてきたものです。時代は先生たちの目指す方向に確実に動いていると思います。「単なる負担増と給付削減による現行制度の維持だけを目的とせず、患者の『価値』を中心に据え、イノベーションや情報活用を促しながら、新たな保健医療システムを構築すべきだ。それは少子高齢社会の先進国である我が国が、国際社会に貢献する道でもある。」ということは、熊谷先生がいつも述べていることです。





カンブリア宮殿・村上龍さんの言葉

インプラントに頼る身として、子どものころ、熊谷先生のような歯科医が身近にいたらどんなに助かっただろうと、切実にそう思う。

恥ずかしながら、幼少時、「バナナ味」の歯磨きペーストを「食べる」だけだった。

予防医学の国民的理解と普及は歯科に限らず、すべての医療にとって、さらに財政にとって喫緊の課題である。

正当な危機感を抱くこと、自分への将来的な投資という概念を広めること。

熊谷先生と日吉歯科の成果は歯科医療にとどまることなく、社会全体に波及すべき重要な啓蒙活動となっている。



プロフェッショナルとは・熊谷崇

夢や希望を持ち続け
先入観や既成概念を捨て
情熱をかたむけ
創意工夫をしながら
ブレずに目的を達成しようと
努力し続ける人



日吉歯科診療所「土蔵」から富士通「クラウド」へ

SAT事務局 伊藤日出男



日吉歯科診療所の訪れた人ならば誰しもが、3万人のカルテを保存した『土蔵』を前にして、「オッ」と声を漏らすような素直な驚きを覚えることでしょう。私も「これがカルテ庫か!」と驚きを禁じ得ませんでした。この土蔵の存在が、「酒田市民の口腔の健康状態を世界一にすること」という途方もない夢のような日吉歯科診療所の理念を、現実的で酒田市民にとって求心力のあるものとしてきたのです。その理念は、患者診療情報のクラウド化を通じて、各地域で予防型歯科医院による企業の健康経営支援への取り組みへとつながり始めました。



予防型歯科の知的資産の価値

多くの歯科医師が、日吉歯科診療所の理念に魅せられて予防歯科を志し、その基盤作りに着手してきました。そして、口腔内情報を得る機材を揃え技術を修得した途端、一端の予防型歯科医院になったと錯覚する傾向があります。この段階で忘れていることがあります。目の前の患者診療情報を生きた情報とするには、過去の患者診療情報の蓄積と管理が重要です。エビデンスという言葉を予防型歯科医院では頻繁に耳にしますが、エビデンスとは過去の患者診療情報が素になっていることは言うまでもありません。エビデンスを得るには、予防型歯科医院としてのそれ相応の年月の積み重ねが要るのです。日吉歯科診療所では、過去36年の患者診療情報を蓄積してきた土蔵の存在が、エビデンスという知的資産を生み、生きた患者診療情報を患者に提供することを可能にしたのです。その知的資産が患者にも歯科医師にも求心力を発揮し、類まれな予防型歯科医院となったわけです。知的資産の求心力とは、ブランド力と置き換えてもいいでしょう。
予防型歯科を自称する多くの医院には、レセプトという財務資産はありますが、未だ知的資産を生み出すまでには至らないようです。その理由は、歯科医師の意識と予防型歯科としての年数の問題もあるでしょうが、過去の患者診療情報を蓄積する環境の問題もあるのではないでしょうか。過去の患者診療情報が、古新聞同様の扱いや法規に則り5年で処分されているケースさえ見受けられます。片や日吉歯科診療所の土蔵は、36年分の患者診療情報を財務資産から知的資産へと価値転換させています。
日吉歯科診療所の土蔵は、耐震性・堅牢性・高度なセキュリティーを有する現代のクラウドと言って良いかもしれません。



図書館のように患者診療情報を管理する

患者診療情報がどれほど予防型歯科医院に価値を与えているのか、図書館に例えてみると理解しやすいでしょう。図書館の管理方法には開架と閉架の方式があり、開架の場合は、一般利用者が自由に書籍を取り出すことができる書架に並べられています。これは歯科医院の現在来院している患者診療情報に当たります。閉架の場合、蔵書は一般利用者が立ち入れない書庫にあり、利用者が依頼すると司書が書庫にある数十万の蔵書の中から「日本分類十進法」に拠って速やかに持ち出してきてくれます。これが歯科では現在動いていない過去の患者診療情報に当たります。図書館の価値は、開架・閉架の蔵書数と管理に有り、利用者に評価されることになります。
一般的な予防型歯科医院では図書館でいう開架は機能していますが、閉架は機能していない傾向があります。日吉歯科診療所の価値は、閉架も開架同様に機能しているところにあります。熱心な利用者が、古い書籍を5年で処分したり、読みたい本の取り出しに時間がかかったりする図書館に価値を見出すでしょうか。このことは、歯科医院に対する意識の高い患者にも当てはまります。
数十万の蔵書の蓄積と管理には、確立された分類方法と何よりも広さが必要とされています。歯科では「患者を生涯顧客とする」といわれて久しいですが、例えば1万人の生涯に渡るカルテ・X 線画像はもちろんのこと規格性のある写真、各検査結果を管理できる広さが、歯科医院にあるでしょうか。
あるいは十分に保全されたサーバー環境で管理することができているでしょうか。特に都市部の100㎡程度の歯科医院では、過去の患者診療情報の蓄積と管理は物理的に不可能なため、収益を生まない患者診療情報は古新聞扱いされることになり、真の予防型歯科医院へと展開できない理由の一つになっています。繰り返しになりますが、レセプト(財務資産)が多く盛業していようとも、規格性のある患者診療情報を長期間に渡り管理して知的資産化できていなければ、真の予防型歯科医院とは言えないのです。



クラウドが変える患者と医院の関係

患者診療情報を知的資産とするために、日吉歯科診療所のような土蔵を造ることは現実的ではありませんが、クラウドを利用することで解決することができます。しかもICT(情報通信技術)によって、患者コミュニケーションには不可欠な即時性と直接性といった強みも加わります。生活者が自分の欲しい情報を即時に直接得られることが常識となりつつある現代社会で、医療だけが例外とされる理由はどこにもありません。
クラウドで患者診療情報を管理することは、コミュニケーションを創り出すイノベーションと言えます。従来の院内で患者診療情報を管理し提供する方法は、歯科医院が患者に情報を一方向で提供していたにすぎません。一方、患者診療情報をクラウドで管理することは、歯科医院のクラウドへ患者自身が情報を取りに行ける双方向のコミュニケーションが可能になるのです。さらに患者診療情報がその人に対していつでもオープンにされるということは、歯科医院が自院の診療とメインテナンスに対して自信がなければできないことです。それは自院の予防型歯科医院としての矜持とも言えます。
情報がオープン化される社会になると、生活者の学習機会が増え評価力が上がってくるために、情報に求められる質が高くなってきます。従来の予防型歯科医院ならば、患者診療情報を画一的に並べておけばよかったものが、そこに患者にとってどれだけ的確な『提案』が盛り込まれているかが、患者にとっての価値となってくるのです。
患者が求めているのは、患者診療情報という媒体ではなくそこにある『提案』そのものになってくるのです。



予防型歯科に求められる「提案力」

そういった成熟した患者に対してクラウドの仕組みから得られたデータをもとに、患者診療情報をプロファイリングしていくことで、的確な提案ができることまで将来的に視野に入れておくことが必要になってくるでしょう。
ごく限られた予防型歯科医院でしか適切な予防処置やメインテナンスができないようでは、国民の口腔の健康は遅々として進みません。ある地域の優れた予防型歯科医院の存在は、手の届く範囲の生活者にとっては素晴らしいことですが、その恩恵に浴することができない生活者が多すぎるのです。
その解決のためにも予防型歯科医院の『提案基準』(図書館でいう分類・安全衛生でいうリスクアセスメント)がオープンリソース化すれば、多くの生活者の口腔の健康は向上し、健康寿命を延ばすことが可能になるでしょう。予防型歯科医院のイノベーションをさらに進めたいと思うのは、QOLの向上、地域と企業の活性化につながると信じるに足る日吉歯科診療所という根拠があるからです。
『土蔵』から始まった患者診療情報のイノベーションは、富士通のクラウドサービスを通じて、QOL向上、地域活性化、企業の健康経営に還元できることが、予防型歯科医院の存在意義ではないでしょうか。